故人に借金も含めて相続するような財産がなければ、相続手続は必要ないですし、相続放棄をする必要もないでしょう。

しかし、相続の対象となるのが故人だけではなかった、というように気づかない相続もあり、このような時に必要な相続が見落とされることがあります。

分かり易い・分かりにくい相続

分かり易い典型的な相続としては、Aが亡くなってAの配偶者とその子供達が相続人なるというケースです。
配偶者が既に亡くなっていて子供だけというケースも、相続財産や相続人特定がしやすい相続になります。

このような相続では、配偶者や子どもは自分がAの相続人であると認識し、Aの遺産について相続手続をすることになります。

しかし、自分が相続人になっていることに気づかないケースもあります。

相続人になっていることを知らなければ、当然、相続に関する手続きもしないでしょうから、後で問題が生じおそれが出てきます。

相続人になっていることを知らない、知りずらいケースとして、「数次相続」「代襲相続」があります。

数次相続のケース

A死亡⇒Aの相続手続しないままB死亡⇒C相続

このような場合、CはAを相続したBの相続人(数次相続)となり、つまり、A、B両者の相続人なることになります。

この時、Cが自身がBを通してAの遺産を相続する立場にいることを認識して、それを踏まえて相続手続をすれば問題ありません。

しかし、Aとは疎遠だったり、Aが亡くなったのがCさんが幼少の頃の何年、何十年も前で長期間Aの相続手続が放置されているような状態であれば、CにとってBが亡くなった時、Aの相続まで思いが及ばないかもしれません。

Bの相続手続だけをしてAの遺産の相続に気づかず放置されるおそれは十分にあります。

代襲相続のケース

B死亡⇒A死亡⇒Bの子Cが相続

Bが亡くなった時、子供であるCは相続人としてBを相続をします。

その後、Bの親Aが亡くなったら、Cは代襲相続人としてAを相続します。

親が亡くなれば子どもである自分が相続人になることは多くの方が認識していますが、おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなって孫である自分が相続人になるケースがあることを知らない方もおられます。

親が祖父母より先に亡くなっていれば、孫が親を代襲して祖父母の代襲相続人になります。

他に相続人がいれば(叔父、叔母)、共に相続手続をすることになるので手続に気が付かないということはないでしょうが、相続人が孫だけの場合、手続が忘れがちになってしまいます。

祖父母に子供は自分の親だけ、その親が祖父母より先に亡くなっている場合、祖父母が亡くなった時は自分が相続人になることを認識しておきましょう。

相続手続(相続放棄含む)を失念した場合のリスク

相続手続が必要なことを知らずに放置していた場合、後で思わぬ負担を背負うことになる、そういうリスクがあります。

以下は、実際に当事務所が取り扱った事例です(一部変更)。

夫婦AB、子Cの家族構成。

Cが幼少の頃、AB夫婦離婚。

Cは母Bと共に生活、離婚後Aとは音信不通。

20年後、Aが遠方の病院で死亡、Aには家族がなく、役所が戸籍を調べて子であるCに連絡してきた。

Cはご遺体を引き取りAの実家のお墓に埋葬。
Aには財産といえるものはなかったので、相続に関しては何も手続しなかった。

10年後、突然、某市役所からC宛に書類が送付。
「某市にX(Aの父)名義の土地がある。Z(Aの弟)がこの土地の固定資産税を支払っていたが、このほどZが亡くなりZのご家族が全員相続放棄しました。そこで、Aの子Cが当該土地の相続人となるので、固定資産税を払って欲しい」という内容でした。

祖父XはAが亡くなる5年位前に亡くなっており、X名義の土地の相続登記をしないままZが固定資産税を払い続けていました。

この場合、X名義の土地に関して、Cには2っの相続が発生しています。

  1. X⇒A⇒Cとする数次相続。
  2. X⇒Z⇒(A)⇒Cとする数次と代襲相続。
    Z⇒(A)⇒Cは、Zの家族が全員相続放棄したので、Zに兄弟相続が発生しAに代わってCが代襲相続人になります。

CはX名義の土地を相続するつもりはないので固定資産税を払う意思はありませんでした。

この場合、X名義の土地の相続権を消滅させるためにZの相続放棄とAの相続放棄をすることになります。

Zに関しては、亡くなって3ヶ月以内でしたので問題なく相続放棄できますが、Aに関してはAが亡くなって既に10年も経過しています。

そのままでは相続放棄が認めてもらえないので、どうして10年も遅れたかを説明する上申書を提出することで、相続放棄を認めてもらうことができました。

しかし、常にこのように10前に亡くなった方の相続放棄が認められるわけではありません。

今回のケースで幸運だったのは、Aに相続すべき財産がなく相続手続をしていなかったことです。

仮に、Aに不動産がありCが相続登記をしていれば、その後にAの相続放棄をすることは難しいと思われます。
※但し、Aに対しては相続放棄ができなくても、Xに対して相続放棄ができる可能性はあります。