相続を争族にしない

故人が生涯かけて築いた財産が、残されたご家族の争いの元になることは悲しいことですが、現実は相続人間ではまとまらず争いが調停、審判、裁判までいくことがあります。ここでは、実際に裁判で争われた内容や、何も対策していなければ相続争いになりやすいケースをご紹介いたします。実際、どのようなことが裁判で争われているかご覧になり、自身にあてはめご参考にして下さい。

相続争いに関する裁判と判例

分かりやすくするため、実際の裁判を一部変更しているケースがあります。

最判平成30.10.19

相続時の状況と争点:
故人A、妻B、子C、D、E。分割調停開始後、妻Bが相続分をEに譲渡。その後、Bは全財産をEに相続させる公正証書遺言を作成。Aの遺産分割調停成立後にB死亡。CがEに対し、Bの遺産にはBがEに譲渡したAの相続分も含まれているとして遺留分減殺請求をした。
判決:
Bによる相続分譲渡は、Eへの贈与にあたるとした。この贈与はBの相続財産として計算され、Cには遺留分があることが認められました。

最判平成29.1.31

相続時の状況と争点:
父A、子B、C、D。Aが税理士から節税になると説明を受け長男Bの子と養子縁組をした。A死亡後、C、Dが節税目的の養子縁組は「当事者間に縁組をする意思がないとき」という縁組無効事由に該当するとして提訴した。
判決:
相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとした。

最判平成17.9.8

相続時の状況と争点:
故人Aはアパートを所有していた。死亡後の賃料は、遺産分割協議が終了するまで保管。保管している賃料を遺産分割協議で決定して分割するか、法定相続割合で分割するかで紛争
判決:
死亡後の賃料収入は遺産とは別ものとし、各共同相続人がその相続分に応じて確定的に取得する、つまり、法定相続割合で分割するとした。

最判平成16.10.29

相続時の状況と争点:
夫A、妻B、子C、D、E。A死亡、次いでB死亡。CDEでA及びBの遺産について遺産分割協議及び分割調停により、各相続人はほぼ同じ額の遺産を取得。遺産とは別にCが自身を受取人とするAの死亡保険金を受領。D、Eは保険金は特別受益だとして遺産取得から差し引くよう請求。
判決:
保険金は、受取人を指定した契約であり遺産とはならないとした。因みに、背景として、Cは自分の家を増築しABを住まわせ、認知症になったAの介護も手伝っていたような状況でしたが、このように最高裁までもめる結果となってしまいました。

最判平成8.12.17

相続時の状況と争点:
A名義の家にAと子Bが同居。A死亡後もBは家に住み続けていた。当該家をBと共に共有者として相続したCが、Bに対しA死亡からの賃料支払いを請求。
判決:
AとBには使用貸借契約があったと推認され(無料で家に住まわせる契約)、遺産分割協議で家の所有関係が確定するまでは契約は継続しているとし、賃料支払い請求をしりぞけた。

最判平成4.4.10

相続時の状況と争点:
故人Aの現金を相続人Bが遺産として保管。他の相続人Cが保管している金銭について法定相続分の支払いを請求。
判決:
現金は遺産分割協議なしに法定相続分に従って分割請求することはできないとした。注)預貯金は遺産分割の対象とならず法定相続分に従って分割されるとの判例があったが、平成28年、預貯金も遺産分割の対象とした。

最判昭62.3.3

相続時の状況と争点:
故人Aの死亡退職金を妻Bが取得、子Cが退職金も相続の対象として遺産に含めて分割するように提訴した。
判決:
法人に退職金支給規定等はないが、当該退職金はAに支給されたものではなく、相続という関係を離れてAの妻であったB個人に支払われたものなので、遺産分割の対象とはならないとした。

東京高裁平成22.9.13

相続時の状況と争点:
故人A、相続人の1人である子Cが自分の妻であるDがAを介護したことによる寄与分を主張
判決:
DをCの履行補助者としてAの相続財産の維持に貢献したものと評価し寄与分を認めた。背景:Dが嫁いで間もなくA入院。入院中世話をし、退院後も通院の付き添い、入浴介助等をしていた。以後13年間に渡り介助を行い、死亡するまでの半年間はかなりの労力をさいて世話をしていた。因みに、判決では、寄与の程度を200万円を下らないとしています。

名古屋高裁平成18.3.27

相続時の状況と争点:
故人A、妻B(後妻)、子CD(共に先妻の子)。遺産総額に比して高額な保険金をBが受領。持ち戻しにより保険金も遺産とすべきと請求。
判決:
死亡保険金等の合計額は約5200万円、相続開始時の遺産価額の61%であり、妻と相続人である子との間に生ずる不公平が大きいとして特別受益に該当し、遺産として計算するよう判断した。

京都地裁平成10.9.11

相続時の状況と争点:
故人A、相続人である子CDで、Dは4年生大学、Cは私大の歯学部に通った。高額な授業料は特別受益にあたるとD主張。
判決:
Aは開業医であり、経済的にみて子供を私学の歯学部に通わせることは特別なことではなく、特別受益にあたらないと判断した。

福岡高裁昭和45.7.31

相続時の状況と争点:
農家A、同居して共に農業を手伝っている子に農地全部を相続する遺言書を作成していたが、記載内容不備で無効であった。他の相続人が生前にこの相続人に贈与された農地を特別受益として、相続財産に加えて分割するよう請求。
判決:
形式不備で遺言書は無効だが、遺言の内容から故人が贈与した農地には持ち戻し免除の意思が認められるとして、相続財産に含める必要なしと判断。

相続争いになりやすいケース

下記のケースは相続人間の協議では争いが生じやすく、簡単にまとまらないことが考えられます。

数人いる子供のうち、1人の子供家族が同居している

紛争の可能性:
同居している子供がそのまま家を相続する場合、他の相続人が自己の相続分を要求するか? 対価としていくら支払うか? 支払うことができるか? できなければ、家を売却して金銭分割することになることも。

再婚夫婦で夫に先妻とのお子さんがいる

紛争の可能性:
後妻と先妻の子とは、交流はあまりないでしょうから、遺産分割協議をすること自体ハードルが高いと言えます。また、再婚して間もなくご主人が亡くなられた場合、法定相続分として半分を相続する再婚相手に子供たちが不公平を感じ、争いになることもあります。
時々、有名な方が亡くなられたとき、再婚相手と先妻の子の相続争いがワイドショーを賑わせます。当事者は他人であり、交流もないので争いになりやすいです。

親からしてもらったことに大きな差がある

紛争の可能性:
不公平感を持っている相続人が、相続で取り戻そうとして争いになる。

故人の介護、世話の程度に大きな差がある

紛争の可能性:
親の近くに住んでいる子、遠くに住んでいる・嫁いでいる子との間で親の介護度合に大きな差がある場合、相続で介護を考慮に入れる、どの程度入れるかでもめることがあります。

家族を相続でもめさせない方法

日頃から家族に自分の意思を伝えておくことが大事ですが、いいずらい・・・が現実。
また、伝えていたとしても、それぞれに事情、思いがあり、それぞれに配偶者(夫、妻)がいればその方の意見も影響し、もめることになってしまいます。
これをすれば、みんなが納得して、平穏に相続される・・という方法はありません。
感情の問題ですから難しいです。できることは、納得しないがそうするしかない、故人の遺志に従うしかない・・とういう状況を作ることです。
これにより、相続人間で争い、ののしり合うような状況を避けることができます。
争い合う隙間を作らない、不満があっても諦めてもらうような状況にすることが重要です。

対策1.公正証書遺言を作成する

遺言書は故人の遺志そのものです。各相続人は不満があっても従うことになります。
まず、形式です。遺言書の書き方に問題があれば、せっかく書いた遺言書が無効になってしまいます。
また、遺言書によって不利益を受ける相続人が、遺言書作成時、認知症等で意思能力がなかった、本人の意思で書いたものではない等々を理由に、遺言書は無効だと争うことがあります。
これを避けるためには、公証人が介在する公正証書遺言を作ることが重要です。
遺言書の内容をそのまま実行すると、遺留分より少ない相続になってしまった相続人がいれば、遺留分に足りない分を他の相続人に請求することができ、ここで争点が生じます。
そこで、遺留分への配慮が必要になります。相続人には最低の相続分として遺留分が民法で規定されています。
故人が一切相続させないと遺言しても、相続人である以上、遺留分は請求できます(あくまでも、請求できる権利であり、分配しなければならないものではありません。)。
特定の相続人の遺留分を害することのないような遺言書の作成が大切です。遺言で遺留分に相当する財産を指定しておくことが考えられますが、その財産が無いときは別の方法を検討します。
例えば、家を相続させる子供を受取人とする生命保険をかけ、当該死亡保険金を他の相続人に代償分割として渡すようにしておく等があります。(家を全部相続する替わりに、他の相続人に相続分相当金額を支払う。)

対策2.不動産の処分

処分できる不動産は、生活に支障を及ぼさない範囲で処分しておくことが紛争を未然に防ぐ一つです。
分割しずらい不動産は単独か共有での相続になります。
単独であれば誰が相続するか?
他の相続人への相続分相当の支払はどうするか?
の問題が生じます。不動産を共有で相続すれば、のちのちの紛争の元になります。不動産を売ってお金に替えていれば、分割は容易なので紛争も抑えられます。