遺留分とは
相続人であれば、故人の遺産を最低限相続できる割合が民法に規定されており、これを遺留分と言います。
故人が遺言書に「Aには一切相続させない」、「Bに遺産の全部を相続させる」と書かれていても、相続人Aは自身の相続分として遺留分を他の相続人に請求することが出来ます。
遺留分請求権は、相続人である配偶者、子、親に認められていますが、兄弟姉妹には認められていません。
遺留分は、請求できる「権利」であり、渡す「義務」はありません。
「Bに遺産の全部を相続させる」とする遺言書がある場合で、Bは他の相続人から遺留分を請求されたら相当額を渡さなければいけませんが、請求がなければ全部を取得することができます。
遺留分の割合
各相続人の遺留分は、以下のようになります。
各相続人の遺留分割合 | |
相続人構成 | 遺留分割合 |
配偶者+子 | 配偶者1/4、子1/4 |
配偶者+親 | 配偶者2/6、親1/6 |
配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者1/2、兄弟姉妹 0 |
子のみ | 1/2 |
親のみ | 1/3 |
※兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分の計算方法
遺留分の割合は上記の様に法定されているので、必要な計算は遺産額になります。
遺産の計算の民法で以下の様に規定されています。
「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」
ここでいう贈与は、相続人に対する贈与と以外の者に対する贈与に分けられ、相続人に対する贈与は相続開始前10年以内、以外の者への贈与は1年以内になされた贈与が対象になります。
ただし、被相続人と贈与を受けた人の両方が、その贈与によって相続人の遺留分を侵害することを知っていた場合は、期間制限がなくなります。
贈与額として計算される額は、贈与した当時の額(価値)ではなく、相続発生時の額になります。
2019相続法改正により、遺留分として渡すのは”金銭”となります。
以前は、不動産であれば遺留分相当の持分を渡すことも可能でしたが、不動産が共有関係になるとトラブルの元になるので、原則、遺留分は金銭で支払うことになりました。
遺留分が多額ですぐに支払うことができない場合、裁判所に金銭の全部又は一部の支払につき相当の期限の許与(支払い期限を延長)を求めることができます。
遺留分の問題点
先に述べたように、遺留分を相続させることは義務ではないので、特定の相続人に何も相続させないとする遺言書を書いても有効です。
遺留分が請求されなければ問題ありませんが、請求されたら現金で相当額を支払わなければいけません。
相続財産の多くが現金や預貯金、有価証券等であれば、解約、換金等して支払うことができるでしょうが、不動産の占める割合が大きければ遺留分相当額を現金で準備するのは容易ではありません。
相続財産中の預貯金で足りなければ、自分の預貯金等から準備することになります。
それでも足りなければ、一部借金したり、最悪、準備できずに相続した財産を売却して支払う、ということも有り得ます。
同居している子供に家を残そうと遺言書を作成しても、他の相続人から遺留分を請求され金銭で払えなかったら、家を処分して金銭を工面しなければならないという状況になってしまいます。
そうならないように対策が必要になります。
法的手続きによる遺留分対策
法律に規定されている手続に基づいて遺留分による紛争の回避をはかります。
遺留分の放棄
相続人に予め遺留分を放棄してもらう方法です。
「放棄する人」が家庭裁判所に申立を行い、放棄の許可をもらうことで成立します。
申立できるのは本人だけなので、申立てるかどうかは本人次第となります。
申立たとしても放棄の理由や遺留分に相当する財産を既に贈与されているか等々を基準に判断されるので、許可のハードルはかなり高いです。
また、許可されたとしても、遺留分を侵害するような遺言書等があった場合に遺留分請求ができないだけで、相続人としての地位は変わりません。
遺言書がなければ、遺産分割協議に参加し自己の法定相続分を主張することができます。
この方法による場合、申立人の意思確認や、遺留分相当額の贈与を行っておくことが重要になります。
相続放棄
相続放棄は相続人としての地位自体がなくなるので、遺留分の放棄のように相続人としての地位が残るようなことはありません
家庭裁判所への放棄申立は、相続が発生した後、被相続人が死亡した後でなければできません。申し立も本人のみです。故人が相続放棄するように本人に言っていても、するかどうかは本人次第となります。
相続人の廃除
故人が生前中に、または、遺言書で特定の相続人を廃除する手続です。
廃除手続きは家庭裁判所で行われます。
被相続人に対する虐待や重大な侮辱等の理由が必要で、気に入らない、疎遠だ、、、という理由だけでは認められません。
また、廃除されたとしても、その相続人に子供がいれば、その子が廃除された親に代わって相続人(代襲相続人)となるので、他の相続人が全部を相続するということにはなりません。
遺留分請求を前提とする方法
遺留分も含めて一切やらないとするよりも、遺留分を請求されることを前提に準備しておく対策もあります。
生命保険の活用
遺留分を請求されるであろう相続人を受取人とする生命保険をかけ、請求された場合は保険金で支払えるようにしておきます。
基本的に保険金は相続財産とはならないので、受取人は受領した保険金を遺留分請求の支払に充当できます。
ただし、遺産総額は少ないのに、保険金額がかなり大きいような場合、保険金も遺産に含むとする判例もあるので、極端な保険額にならないように注意が必要です。
合わせて遺留分の計算基礎になる遺産を少なくしておけば、支払う遺留分も少なく済みます。
例えば、預金や有価証券等の資産を換金して、一時払い終身保険に入ります。これにより、遺留分の対象となる金銭財産が減少し、同時に死亡保険金受取人は遺留分の支払金額を確保することができます。
ただし、この場合も生命保険と同じ様に、遺産に対し死亡保険金が過大であると遺留分の対象となってしまうおそれがあるので注意が必要です。
暦年贈与(年110万円を非課税で贈与できる)して遺産額を少なくすることも考えられますが、死亡前10年以内にされた贈与は遺留分の計算対象になりますし、双方が遺留分を害すると知って行った贈与とみられれば、10年の期間制限もなくなるので慎重な対応が必要です。
残された配偶者の居住の確保
残された妻(又は夫)の老後の生活を心配して自分名義の家を妻(又は夫)に相続させる遺言書を残していても、相続争いになり他の相続人の相続分や遺留分を準備できずに家を処分しなければいけないケースが少なくありません。
そこで、国は配偶者が相続後も引き続き家に住み続けられるように新たな制度を設けています。
生前贈与、遺贈
20年以上の婚姻関係(他にいくつかの要件有)のある夫婦で、夫(又は妻)名義の家を妻(夫)に生前贈与(遺贈でも可)する場合、2000万円(暦年贈与を含めれば2110万円)までが非課税となります。
贈与後に夫が死亡したとき、家は既に妻名義なので相続財産には含まれないので、当然、遺留分計算の対象になりません。
配偶者居住権
残された配偶者の居住する場所を確保することを目的に、家という不動産に対して所有権の他に居住権という新たな権利が創設されました。
配偶者居住権は、遺贈又は遺産分割協議により配偶者が取得します。
遺産分割協議では相続人全員の承諾が必要になり、1人でも反対者がいると取得できなくなるので、配偶者に居住権を取得させたい場合、その旨を書いた遺言書を残しておくことが重要です。
配偶者居住権は、配偶者以外の者が相続人が所有者になっても、更に売却されて相続人以外の者が所有者になっても消失しないので、亡くなるまで住み続けることができ遺留分を気にする必要はないでしょう。
遺言書の付言事項で気持ちを伝える
自分の考え、想いを相続人に伝えたいときに、遺言書の最後に付言事項として書き加えることができます。

「〇〇は私と同居してくれていろいろ面倒をみてくれたので、家は〇〇に相続させたい。△△にとっては不満かもしれないが、遺留分を請求しないで欲しい」等々を書くことで、遺留分請求を思いとどまってもらうことが期待できます。
但し、付言事項には強制力はないので、どうするかは、あくまでも△△次第になります。
初回のご相談は無料です。
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