相続について

財産を持っている方が亡くなると、その財産について相続手続きが必要になります。

「相続」は誰もが知る一般的な言葉ですが、いざ、自分が相続人になると、何をしたらよいのか、どのようにするのか、知らない事は案外多いです。

相続する上で、以下の事を知っておく必要があります。

    • 相続方法の種類(単純承認・相続放棄・限定承認)
    • 相続財産の把握(対象となる相続財産)
    • 相続人の範囲(誰が、どこまで親族が相続人になるのか)
    • 相続の順位(相続人になる順位)
    • 相続割合(相続人としての立場で割合が異なる)
    • 遺産分割の方法(遺言書に有無、調停)

相続方法の種類

相続には「単純承認」「相続放棄」「限定承認」の3っの種類があります。
種類によっては期限があったり、ある行為によって選択したものとみなされたりするので注意が必要です。

単純承認

「単純承認」とは、故人(被相続人)の財産を単純に、そのまま相続する方法です。

この方法を選択する場合、特に何もする必要はありません。
自分に相続があったことを知ってから(通常、故人が亡くなったことを知ってから)3ヶ月以内に相続放棄や限定承認の手続をしなければ単純承認したことになり、故人の財産をそのまま相続することになります。

この3ヶ月を「熟慮期間」と言い、民法はこの熟慮期間内にどの手続きで相続するか決めてください、決めなければ単純承認してものとみなしますよ、と規定しています。

単純承認による相続手続きは、言葉の通り、単純に故人の相続財産をそのまま受け継ぐことになります。
相続財産にはローンや借金等の負の遺産も含まれているので、これらも受け継ぐことになるので注意が必要です。

法定単純承認行為

民法に規定された要件に該当する行為をすると、当人の意思に関係なく単純承認したものと法律的にみなされてしまうことがあります。

民法921条に、以下の3つの要件のいずれかに該当する行為を相続人が行った場合、その相続人は単純承認したものとみなされることになります。

  • 相続人が相続財産の全部又は一部を処分した。
  • 相続人が熟慮期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかった。
  • 相続人が限定承認又は相続放棄後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった。

相続放棄

相続放棄は、故人の借金等のマイナス財産も含めた全部の財産を法律的に放棄する手続きです。

敢て「法律的に」と書いたことには理由があります。

相続人間で話し合って遺産分割の方法を決めることがありますが、話し合いの場で「私は遺産は一切要りません。」と言って遺産を相続しない方もおられます。
この場合、当人は「相続放棄をした」と思われているかもしれませんが、法律的にはそうではありません

故人のプラスの財産は、遺言書がなければ相続人間で協議してどのように分けても良いのですが、借金等のマイナスの財産はそうはいきません。
マイナス財産には、第三者である相手(債権者)がいます。

債権者を無視して勝手に借金を誰が相続するかを相続人だけで決めることはできなく、原則、借金等のマイナス財産は法定相続割合に従って各相続人が相続すると規定されています。
これ以外の相続をする場合、債権者の承諾が必になります。
※相続人間だけの協議も可能で、相続人間では有効ですが、債権者に対しては承諾されなければ効力がありません。

債権者に対しても有効な相続放棄をするには、期間内に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出し受理してもらう必要があります。

参照相続放棄の詳細はこちら

限定承認

限定承認は、故人のプラスの財産を換金して借金等のマイナスの財産を返済し、結果、プラスの余りがでた場合にのみ相続するという方法です。
プラスがでなかったら、借金も含めて何も相続しません。

プラスの財産はあるが、借金も多くいくらあるか分からないような場合に有効な相続方法と言えます。
相続人にとって安心な相続方法なんですが、デメリットもあります。

相続人が複数人いる場合、全員でする必要があります。
1人でも反対すると、限定承認はできません。

また、財産調査、換金・返済等の清算手続きにかなりの費用、時間を要するのであまり利用されていません。

限定承認の最大の利点は、
故人の借金を相続することなく、故人の家を取得できる
制度があることです。

限定承認をすれば、基本的に故人の家は競売され借金の返済あてられますが、相続人には競売前に優先的に家を適正価格で取得できる権利があります(先買権)。
取得費用は必要ですが、先買権により家を保持することが可能です。

相続財産の把握

相続する際、相続の対象となる相続財産を把握する必要があります。
故人が亡くなった時に所有しているの財産が相続の対象となります。
分かり易いもので、

  • 現金
  • 預貯金
  • 不動産、動産
  • 有価証券等々

があり、他に賃借権(公営住宅は除く)や地上権、借地権、債権(故人が貸していたお金等)などがあります。また、上記のようなプラスの財産だけでなく、ローンや借金等のマイナスの財産も相続の対象になります。

対して、故人の一身に専属しているものは、相続の対象とはなりません。
例えば、生活保護受給権、身元保証人の立場、扶養請求権、使用貸借※1などがあります。

※1:使用貸借とは、動産、不動産等を無償で借りることです。親しい関係だったり、何かのお礼として無償で空いている土地や使っていない家を貸すことがあります。その人だから貸すという一身的なものなので、相続の対象とはなりません。借主の死亡で当然に使用貸借は終了します。

相続が発生した場合、漏れがないように故人の相続財産を調査し相続手続きをしていくことになります。

※生命保険の保険金は対象外です(相続税の対象にはなります)。
保険契約時に指定された受取人が受領することになります。
ただし、遺産総額に対して保険金の割合が大きい場合、相続財産に加えられる場合があります。

借金や保証に注意

故人の借金や故人なっている保証人としての地位・責任も相続の対象になります。
どのように遺産分割するか相続人間で協議して決めることは可能ですが、決めたとしてもその効果は相続人間のみで有効で、債権者(貸主)に対しては承諾してもらわなければ効力はありません。

故人の借金は、法定相続割合通りに各相続人が自動的に相続することになります。
故人の借金や故人なっている保証人としての地位・責任も相続の対象になります。

どのように遺産分割するか相続人間で協議して決めることは可能ですが、決めたとしてもその効果は相続人間のみで有効で、債権者(貸主)に対しては承諾してもらわなければ効力はありません。

故人の借金は、法定相続割合通りに各相続人が自動的に相続することになります。

債務の相続

故人に1000万円の借金、相続人がお子さん2人の場合
お子さんの法定相続割合は各2分の1になるので、各自500万円の借金を相続することになります。

これは、故人が連帯保証人になっている場合も同様です。
故人が1000万円の連帯保証人になっていた場合、お子さんは500万円の連帯保証人としての地位・責任を相続します。

連帯ではない単なる保証人の場合は、保証人の数が関係します。
1000万円を故人ともう1人の2人で保証人になっていた場合、故人の保証額は1000万円を保証人の数である2で割った500万円になります。
それをお子さん2人が相続するので、お子さんが相続する保証人の地位・責任の額は各250万円になります。

悩ましい保証人問題

故人が保証人として保証している額を保証債務と言います。
借金と同じくマイナスの財産ではありますが、その性質は借金とは異なります。

借金は既に確定している債務なので、返済しなければいけません。

対して保証債務は、確定していません。
1000万円の保証人になっていても、債務者(借りた人)が順調に返済し完済してくれれば何の義務も発生しません。
返済が滞ったときに初めて保証人としての返済義務が発生します。

保証債務の相続

例えば、故人には2000万円のプラスの相続財産があるが、故人の兄の3000万円の借金の連帯保証人になっているようなケース。
3000万円の連帯保証人としての責任を回避するには、相続放棄をしなければいけませんが、そうすると、故人の2000万円のプラスの財産も相続することができなくなります。

明解な解決策はありません。
3000万円の借金の残金はいくらか、故人の兄の経済状態、万が一の時の自分の経済力、等々を検討して判断することになります。

もう一つの問題として、故人が保証人になっているかどうかの調査は難しいことがあります。
故人の家の机や箪笥、書棚等を調べて、保証契約書等がないか探すしかありません。

故人が亡くなり単純承認で相続した3年後、金融機関から突然、債務者返済不能により連帯保証人である故人の相続人として返済を求められることもあり得ます。

こうならにように、生前から保証人になっていないかを聞いておくことも大切です。
特に、商売、事業をされている方は、知り合い等と互いに保証人になり合ってお金を借りることもあるので、確認しておきましょう。

相続人の範囲・順位・相続割合

相続人に関しては、民法で相続人になる範囲、相続の順位、相続する割合が規定されています。

相続人の範囲と順位

相続人の順位
相続人になる人は、配偶者、子、親、兄弟姉妹に限定されます。
事実婚(内縁関係)の場合、配偶者として相続人になることはできません。養子縁組の親子関係と血縁親子とで、相続に関して違いはありません。この表の者が全員相続人になるのではなく、相続人になる順位が規定されています。
配偶者(婚姻関係にある妻又は夫)は、必ず相続人になるので順位はついていません。第一順位:子供
第二順位:親
第三順位:兄弟姉妹第二、第三順位の相続人は、先順位の相続人(全員)がいない(相続放棄も含む)場合に相続人になります。

妻と子が相続人で、母親に父の遺産全部を相続してもらうつもりで子供全員が相続放棄してしまうと、第一順位である子供がいなくなったことで相続権は第二順位の親に、亡くなっていれば第三順位の兄弟姉妹に移行し、母親と亡父の兄弟姉妹が共同相続人になります。母親に全部を相続してもらいたい場合、相続放棄をせずに遺産分割協議で母親が全部を相続する内容で協議書を作成します。

数次相続と代襲相続

数次相続
数次相続の相続人
相続人が相続手続きをしない間に亡くなり、その相続人が相続することを数次相続と言います。
母親が亡くなり、その子供が母の遺産を相続しますが、相続手続きをしないうちにその子供が亡くなると、その子供の妻と子供達が母の遺産の相続人になります。

代襲相続
代襲相続の相続人
先に子供が亡くなり、その後に母が亡くなると、母の遺産は子供達が代襲相続人として相続することになります。
子供の妻は義母の相続人にはなりません。

代襲相続の特則

代襲相続は、故人の子供、親、兄弟姉妹に認められています。

子供に関しては、子供の子(故人の孫)、またその子供(故人のひ孫)とずっと下がって代襲相続が認められます。
親に関しても同様に、親の親(故人の祖父母)、またその親(故人の曾祖父母)と上がって代襲相続が認められます。
しかし、兄弟姉妹に関しては、その子(被相続人の甥、姪)までが代襲相続人となり、その下(甥・姪の子)に代襲相続は認められません。

相続割合

各相続人は、その立場で割合が以下のように民法で規定(法定相続割合)されています。

法定相続割合1
相続人が配偶者と子供のケース
法定相続割合2
相続人が配偶者と故人の親のケース
法定相続割合3
相続人が配偶者と故人の兄弟姉妹ケース
法定相続割合4

法定相続割合は、相続人が自分の相続分として主張できる権利なので、この通りに分けなければいけないものではありません。
遺産分割協議で相続人全員が承諾すれば、別の分け方も、例えば相続人1人が全部を相続すると決めることも可能です。

法定相続割合での相続

相続財産の中でも、基本的に法定相続割合で相続することになっているものがあります。

先に述べた、借金や保証債務は法定相続割合による相続になります(債権者の承諾があれば異なる相続も可)。

他に、故人所有のアパートやマンション、駐車場、貸し車庫等の不動産収入も、相続発生から分割協議で次の所有者が決まるまでの分は、法定相続割合で分割されることになります(相続人全員の合意があれば異なる分割も可)。

預貯金は、以前は相続発生時に相続割合に応じて分割され、遺産分割協議の対象とならないとされていましたが、最高裁判例で遺産分割の対象とされました。

遺産分割の方法

遺産の分け方については、遺言書に有無で異なります。

遺言書がある場合

遺言書の内容に従って遺産を分けていくことになります。

遺言書が自筆証書遺言(故人が自分で書いて家に保管されている遺言書)であれば、最初に家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になります(公正証書遺言は不要)。

遺言書を隠匿・破棄したり、改ざんすると、相続人としての地位を失うことにもなり得るので、遺言書を見つけた時は他の相続人に知らせて相続手続きを行うようにしましょう。

遺言書がない場合

遺言書がなければ、相続人全員でどのように遺産を分けるか遺産分割協議して決めることになります。

この協議がまとまれば、書面(遺産分割協議書)にして全員が実印を押印(印鑑証明書も要)します。

不動産登記をはじめ、預金口座の解約等の手続きには、遺産分割協議書が必要になります。

相続が争続になる原因

遺産分割協議が紛糾することは珍しくありません。

法定相続割合通りに分ければよいのでは、思われるかもしれませんが、故人と各相続人との関係にはそれぞれの歴史があります。

故人が生前に特定の相続人だけに多額の金銭を贈与していた(特別受益といいます)、特定の相続人が自身の時間を使って献身的に故人の療養看護をしていた(寄与分といいます)等々があると、それらを一切考慮せずに相続が行われることに不公平感を抱く相続人もおられます。

そこで、法律は遺産分割をする際、「特別受益」や「寄与分」があったと認められる場合は、その分を遺産分割に反映させることができるとしています。

特別受益があればその分少なく、寄与分があればその分多く遺産分割されることになりますが、この特別受益や寄与分が紛争の原因になります。

期間の制限がないので、「あの時、あなたは、あれをしてもらった、これをしてもらった。」「私は故人に対してあれをした。」等々と何年、何十年も前のこと言い合うことになります。

それを認めるか、認めないか、そして、最終的にはそれを金額に換算(相続時の価値)することになるので、いくらにするかでももめる原因になってしまいます。

参照特別受益の詳細はこちら
参照寄与分の詳細はこちら

遺産分割調停・審判

相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所で遺産分割調停をすることになります。
家裁の調停員を通して全員が合意できる分割方法をまとめていきます。

調停でまとまらない場合は、自動的に審判に移行し裁判官が決定(判決と同様)をします。

参照遺産分割調停・審判の詳細はこちら

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