空地

親が所有している土地に子が家を建てるケースがあります。

親が住んでいる家が古くなり建替えが必要になり子どもが自分名義で2世帯住宅を建てて同居したり、敷地が広く空いている場所に建てたり、または、使っていない土地に建てたりすることがあります。
※同じ敷地に家を建てる場合、当該土地を分割または分筆する必要があります。
土地の購入費用がいらないので親としては土地を提供したいでしょうし、子としても少ない資金でローン審査も通りやすくなるのでありがたいところです。
※通常、ローンで家を建てることになると思いますが、その場合、敷地となる土地に担保権が設定されることになります。
当該土地に既に他の借入により抵当権等の担保権が設定されているとローンの審査が難しくなります。
親から資金援助が期待できる場合、住宅取得等資金として非課税(最大1,500万円、令和3年11月1日現在)枠を利用することができます(適用要件有)。

この場合、気を付けなくてけないのが「税金(贈与税)」と「相続」です。

税金については、税理士先生の専門ですのでここではごく一般的な情報をご紹介するにとどめ、司法書士として相続が発生した場合の問題点、そうならないようにするための対策を解説いたします。

税金について

親の土地に子供が家を建てたときに地代や権利金を支払うことは通常ありません。
このように地代も権利金も支払うことなく土地を借りることを土地の使用貸借といいます。
親の土地を使用貸借して子供が家を建てた場合、子供が親から借地権相当額の贈与を受けたことになるのではないかという疑問が生じます。
しかし、使用貸借による土地を使用する権利の価額はゼロとして取り扱われていますので、この場合、子供が借地権相当額の贈与を受けたとして贈与税が課税されることはありません
この使用貸借されている土地は、将来親から子供が相続する時に相続税の対象となります。
相続税の計算のときのこの土地の価額は、他の人に賃貸している土地ではなく自分が使っている土地として評価されます。つまり、貸宅地としての評価額でなく自用地としての評価額になります。
(国税庁HPより)

※親に地代を払うと使用貸借ではなく賃貸借となるので権利金も払う必要が出てきます。
払っていなければ権利金が贈与ととられる場合があるようです。
詳細は必ず税理士にご相談、ご確認下さい。

相続について

親名義の土地に子が家を建てた場合、相続人が子1人であれば相続で問題になることはありません。
使用貸借として無償で土地を借りていたのなら、当該土地は相続財産として取り扱われることになります。

考えなくてはならないのは2うのケース。
1.子が複数人いる。
2.親、子供家族が2世帯住宅等で同居している。

子が複数人いる場合

遺言書がある場合とない場合で考える必要があります。

遺言書がある

遺言書があれば、それには当該土地は家を建ている子供に相続させるとする内容が書かれているでしょうからその通りに相続することになります。
遺言書に問題が無ければ、他の子どもが土地に関して異議をはさむことはできません。

ただし、注意すべき点が一つあります。
それは、他の相続人の遺留分です。

他の相続人への相続分が遺留分を下回る場合、足りない分を請求される可能性があります。
足りない分は金銭での支払いになるので、請求された場合に備えてその分の金銭を準備しておく必要があります。

無ければ、最悪、土地を売って現金化して支払うようなことになってしまいます。

特に、相続財産価値の大部分が当該土地であるような場合は、1人の相続人に相続することになると遺留分を請求されたら自己資金で支払うことになるので大変になります。

その場合、生命保険の加入し土地を相続する子を受取人にすることで保険金を遺留分に充当することができるので、検討するのも良いでしょう。※遺留分とは相続人が自己の相続分を主張できる最低割合です。基本的に法定相続分の2分の1です。
遺留分は必ず支払わなければいけないものではなく、請求されたら支払うというものです。

遺言書がない

遺言書がなければ相続人全員で遺産分割協議をすることになります。

既に親の土地に子供名義の家が建っていることは周知のことでしょうから、通常、当該土地は家を建てている子が相続することが前提で協議されることが多いです。

他の相続人は自己の法定相続分に見合った相続分を他の財産から取得することになります。
※分割方法は話し合いによる合意で決定されるので、法定相続分通りに分けなければいけなりということはありません。

また、他の相続人からは親の土地を賃料も払わずに使っていると見られ、受けた利益は特別受益に該当すると主張される可能性もあり争いになってしまうこともあります。
※この点については、賃料相当額については持ち戻しの免除の意思があったのでは?
親と同居していろいろな面で世話をしていたのであれば、特別受益に該当しない?
等々の見解があります。

法定相続分は遺留分の2倍です。
不動産以外に相続財産がなかったら準備するのも大変です。
準備できなければ土地を処分して金銭での分割になり、家を失うことになります。

対策としては、遺言書の作成、相続税清算課税制度、家族信託、生命保険への加入等が考えられます。

親と子ども家族が同居している

このパターンにおける相続についても上記で述べたことと同じように遺留分や法定相続割合に関することが問題となります。
これとは別に、一つ心に留めておいたおいた方が良い問題があります。

父名義の土地に子名義の家を建て、父・母と子供家族が同居しているケースです(他に子はいない)。
父が亡くなれば、土地は母、子、母と子の3つのいずれかの方法で相続されることになります。

法定相続割合としては、母2分の1、子2分の1となりますが、親子仲が非常に良ければ、母は子が土地を相続すれば良いと考えるかもしれません。
もちろんそれでも結構です。

しかし、司法書士としては最悪のケースも含めて説明しなければいけません。

この場合の最悪なケースとは、土地全部を子が相続した後にその子が母よりも先に亡くなってしまうことです。

その場合、土地と家の相続人は奥さんとその子供になります。
母には相続権がありません。

追い出されることはないでしょうが、母としては居心地が悪くなってしまうかもしれません。
奥さんの年齢が若ければ再婚ということも考えられますので、そうなった場合の母としての立場がどうなるか不安になるでしょう。

このような最悪のケースを考えると、全部をお子さんに相続させるのではなく土地は母の単有若しくは子との共有にしておいた方が良いでしょう。

補足:離婚したら処理が大変

親名義の土地に子供夫婦が家を建て、その後子供夫婦が離婚するようなことになったら家はどうなるか?
考えたくないことですが、ありえない事でもないので家を建てる前に知っておくことも大事です。

ここでは、
1.親の実子がそのまま家に住み続ける。
2.家を処分する。
上記のケースを考えます。

実子が住み続ける

親、土地との関係では全く問題ないでしょう。
親としては、今まで通り使用貸借として無償で土地を実子に使わせることに異論はないでしょう。

しかし、家のローン、及び金融機関との交渉が問題になります。

ローンと金融機関

離婚にあたってローンが大きな障害になるケースがあります。
夫婦でのペアローンだったり、連帯債務者、連帯保証人になっていたりすると、離婚により家を出ていく方が債務から離脱することになりますが、それには金融機関の承諾が必要になります。

夫又は妻に替わる金融機関が認める経済的に裏付けある人を新たな連帯債務者等にする必要があります。

多くは親や兄弟姉妹等の親族にお願いすることになるでしょが、金融機関と話しをまとめるのは簡単ではありません。

家の処分

義父の土地に娘婿名義で家を建てている場合が問題になります。
父は娘婿から地代はもらわないケースが多いです。

この場合、先述したように家が土地を使用して建っている権限は使用貸借になります。

この使用貸借は、賃貸借を比べて圧倒的に弱い権限です。
ただで土地を使っているので当然と言えば当然なんですが、この使用貸借の解消は賃貸借の解消ほどハードりが高くありません。

民法では、「当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。」

「当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。」と規定されています。

通常、父が自分名義の土地に娘夫婦の家を建てさせる場合、将来相続で土地を渡すことが前提でしょうから期間を定めることはしないでしょう。
そして、目的も定めていなかったら、条文上、父はいつでも使用貸借を解除することが認められることになります。

この権利関係の状態で娘夫婦が離婚した、又は、娘さんが亡くなった場合、夫名義の家はどうなるか?

最悪のケーズは・・・
父より使用貸借を解除され、建物収去土地明渡請求がされることになります。

建物収去土地明渡とは、建物所有者である婿が自腹で家を解体して更地にして義父に土地を明渡すことを意味します。

実際に裁判で争われた事例
父が自分名義の土地を娘夫婦に提供し娘婿が家を建て、その後娘さんが亡くなったケースで、娘婿が娘さんの生前中に不倫をしてもうけた子を娘さんが死んだ後に認知して自宅で一緒に住んでいることを知った父が、使用貸借解除、土地の明け渡しを求めた裁判を起こし、裁判所(地裁)が認めたものがあります。
※法律が父の気持ちを汲んで土地の明渡しを認めたとういうより、それほど使用貸借は権利として弱いということになります。
仮に、娘夫婦が父に地代を支払っていたら賃貸借関係となり、結果が変わる可能性もあります。