農地

「祖父が亡くなり、父も先日亡くなったので相続の手続きをしていたら、名義が祖父のままの土地があることに気付いた。
私がこの土地を相続することになったので登記簿を見たら、明治時代の日付で抵当権が設定されている。これって抹消できるの??」

実はこのような土地が少なくありません。
大昔の抵当権(放置されている抵当権等を休眠担保権と言います)であり、この抵当権に効力があるとは言えません。
この抵当権が実行されて突然競売の申立が・・・ということはまずないでしょう。

それは、抵当権にはそれを設定する原因となる債権があります。
お金を借りる際、その担保として所有している土地に抵当権を設定することを話し合い、貸す方と借りる方が共同して抵当権を設定しています。
しかし、この借金は最長10年で時効で消滅するので明治時代に設定されている抵当権で担保されている借金は時効で消滅しているので、この抵当権を使うことはできないことになります。

では、簡単に明治時代のような古い抵当権を抹消できるか・・というと簡単ではありません。

どうやってこのように古い抵当権を抹消するか、司法書士が分かりやすく解説します。

休眠担保権とは

休眠担保権とは、その名の通り眠っている担保権のことを言います。
担保権として、抵当権のみならず、根抵当権(元本が確定しているもの)、質権、先取特権も含みます。

古い担保権で実際には効力はなくても、この様な担保権が登記簿に残っていると売却することは難しいでしょう。
※売却自体はできますが、売る場合は前提として抹消することが条件になるでしょうし、売らない場合でもこのような古い担保権は次の相続人のためにも抹消しておくにこしたことはありません。

通常ですと、担保権は担保権者と設定者が共同で申請して抹消しますが、長期間放置されたままの休眠担保については、一定の要件をのもとで単独で抹消することが認められています。

休眠担保権の抹消方法

抹消は共同申請が原則ですが、義務者(抵当権者等)が所在が知れないケースで共同申請ができない場合の抹消申請方法が不動産登記法に規定されています。

除権決定による抹消

不動産登記法70条1項、2項に「登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、公示催告の申立てをすることができる」、「非訟事件手続法第百六条第一項に規定する除権決定があったときは、当該登記権利者(土地の所有者)は、単独で登記の抹消を申請することができる。」と規定されています。

この規定により、登記義務者(抵当権者等)の所在が知れない場合、公示催告により裁判所に申立てを行い除権決定を受ければ、単独で抹消できることになります。
※弁済期から20年経過している必要はなく、供託も不要です。

裁判所から除権決定を受けるには、権利が消滅していることを証明する書面(完済したときの領収書、完済証明等)を裁判所に提出する必要があります。
しかし、これらの書面を見つけるのは難しく、また、官報公告も必要だったりするので実務では殆んど利用されていません。
※公示催告の申立をして除権決定を得る手続きにおいて、公示催告で時効が完成している旨の援用ができません。よって、除権決定において時効による権利消滅を申し立てることができません。

弁済証書による単独抹消

不動産登記法第70条3項前段に「登記権利者が先取特権、質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報を提供したときは、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。」と規定されています。
この場合に必要となる証書は、債権証書と被担保債権額及び最後の2年分の利息・損害金の完全な弁済があったことを証する書面になります。

借金は既に弁済しているのに抵当権等が残っていて、設定者(土地の所有者)側の手元に弁済したことを証明する書類がある場合にこの規定を使います。

土地の所有者が単独で抹消の申請書を作成し、この証書と共に法務局に提出することで抹消することができます。

※かなり古い抵当権で除権決定や70条3項前段に必要な弁済証書や領収書等の証書が残っていることはあまりありません。
そこで、実際には、以下の2つの方法を選択することになります。

弁済証書等がない場合の単独抹消

不動産登記法第70条3項後段に「被担保債権の弁済期から20年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたとき」も単独で抹消できると規定されています。

弁済期から20年を経過していることを証する書面が必要ですが、登記簿に弁済期が記載されていれば問題ありません。
記載されていない場合、昭和39年以前の抵当権であれば債権成立の日(成立日の記載がなければ当該担保権の設定日)を弁済期とします。
以降は、契約書や借用書、又は債務者の申述書を提出することになります。

また、供託したことを証するものとして供託正本が必要になります。
供託金は、債権額+利息+供託する日までの遅延損害金(法務局に供託)になります。
明治時代の抵当権だと60年、70年位分の遅延損害金が上乗せさせることになるの莫大な供託金・・とお思いになるかもしれませんが、そうはなりません。
明治時代の抵当権の債権額は50円とか100円位です。現在の価値に換算する必要はないので、昔のままの額に対して利息、遅延損害金を加算することになります。
多くのケースは数千円程度の供託金で済みます。

手続きに必要な書類として、

  • 登記義務者(抵当権者)の所在が知れないことを証する書面:この書面に該当するものとしていくつかありますが、抵当権者が個人の場合は、登記簿に記載された住所に債権額の受領催告書を配達証明付き郵便でそ送付して、不到達として戻ってきたものを提出します。法人の場合は少し難しく、法人の登記記録・閉鎖登記簿の調査を行って記録や登記簿が存在しない事等を調査書にまとめて提出します。
  • 被担保債権の弁済期を証する情報
  • 弁済期から20年経過後、被担保債権、その利息及び債務不履行で生じた損害の全額に相当する金銭を供託したことを証する情報

※弁済期から20年以上経過した古い抵当権全てに上記抹消方法が適用されるわけではないのでご注意下さい。
上記は抵当権者が所在不明なケースでの抹消方法であることをご留意下さい。

判決による抹消

休眠担保として抹消する上記制度を利用しない場合、原則に従って抵当権者と設定者(土地所有者)が共同して抹消申請することになりますが、かなり古い抵当権だと相続の問題が生じます。
抵当権者が亡くなった後に抵当権が消滅している場合、抵当権は一旦相続人に移転登記して抹消します。
亡くなる前に消滅している場合は移転登記は必要ありませんが、抹消申請には相続人全員と共同して申請することになります。
抵当権が明治や大正時代であれば、相続人が膨大な数になってしまい相続登記や全員に抹消の了解を得て共同申請するのは簡単ではありません。

そこで、困難が予想されるときは裁判をして判決により抹消申請を行う方法があります。
また、協力してもらって共同申請する場合でも、多くは事前通知による申請になります。
申請には設定時に法務局から抵当権者に渡された登記済証が必要ですが、大体は紛失しているので事前通知の方式が採られます。
この場合、申請には全相続人の印鑑証明書の提出が必要で、申請後に法務局から申請確認の通知が送られてきて、2週間以内に返送しないと申請のし直しになってしまいます。
このようにように共同申請するにも相手にとっては面倒が必要になります。

そこで、より簡易で手続きをするために訴訟をして判決をとって所有者が単独で抹消手続きを行うことができます。
訴えの相手は抵当権者(亡くなっている場合は相続人)になります。
相続人が複数で申請に協力してくれる人、くれない人がいる場合、協力してくれない人だけを訴えることもできますが、協力してくれると言った人が途中で非協力になってしまうとこの人を訴訟に加える手続きや、最悪、新たに訴えを起こさなければいけなくなるおそれがあるので、全員を相手に訴訟をした方が良いでしょう。
ただし、余計な軋轢を生じさせないためにも、事前にその旨を相手に伝えておくことも大事です。

裁判では、被担保債権又は抵当権が時効により消滅していることを主張することになります。
昔の抵当権の場合、被担保債権の時効による消滅を主張して抵当権の抹消判決を得ることになります。

まとめ

古い抵当権でも登記簿に残っている以上、売ることは難しいです。
誰しも抵当権の付いた土地を買いたくはありません。
売ろうと思って、いざ、抵当権を抹消しようとしたらかなり時間がかかってしまい時機を逸してしまうことになるおそれもあります。
気付いたときに専門家である司法書士にご相談いただき、余裕をもって抹消手続きをされることをおススメします。