共有

いろいろな経緯で1筆の土地を他者と共有しているケースがあります。
基本的に不動産を他人はもとより親族であっても共有することはおススメしません。

管理、運営方法でもめたり、売却するにも他者の同意が必要であったりするので、共有はもめ事の原因になることが多いです。
当事者間でもめなくても共有者死亡により相続が発生し配偶者や子供が相続すれば、共有者が増えることになり、人が多くなればそれだけトラブルも多くなってしまいます。

上記のように共有にはトラブルが伴いがちですが、購入資金の問題で共同で土地を購入した、親名義の土地を兄弟姉妹と共同で相続した等々で共有状態になる場合があります。

共有土地を売却する場合、全員で売却することが基本です。

自分の持分だけを売却することも可能ですが、持分だけを買っても当該土地を自由に使えないので一般の方で買う人はいないでしょう。業者が買うことがありますが、売却額は極端に下がってしまいます(2分の1共有で土地全体の評価額の2分の1になることはまずありません)。

共有不動産を売るには共有者全員で協議して売ることになりますが、共有者の1人が所在不明で協議することができないときはどうなるか?

特に相続登記を長期間放置していて相続人が複数存在しているような場合、会ったこともない、連絡したことない、どこにいるのか分からない共有相続人が存在することがあります。

例えば、おじいちゃん名義の土地の相続登記を放置、子供や孫、ひ孫等々、数次相続も発生していて法定相続人は20人以上になる、、、、というようなケースもあります。
このような状況で当該土地を売るには、相続登記をして相続人全員で売却することが必要ですが、中には所在が分からない相続人がいると問題になります。

今回は、共有不動産を売却したいが共有者が所在不明のときの対処について解説します。

共有不動産の売却

先述したように共有不動産を売却するには、共有者全員による手続きが必要です(持分のみの売却は除く)。
登記申請には共有者全員の登記識別情報(権利証)、実印、印鑑証明書が必要ですし、それ以前に司法書士による共有者全員に対する本人確認、売却の意思確認が必要です。

では、共同で購入した後共有者の所在が不明になった、相続登記を長期間放置した後、法定相続登記したら多数の共有状態になってしまい中に所在不明者がいたような場合はどうするか。
※相続登記は、相続人が複数しても内1人により法定相続割合に従って全員の相続登記をすることが可能です。

以前であれば、裁判をしたり不在者財産管理人を置いたり等複雑な手続きが必要で時間も費用もかかってしまい簡単ではありませんでしたが、政府はこのような所在不明者が円滑な不動産流通の障害になっているとして、先ごろ法律を改正しました。

所在等不明共有者の持分譲渡の新制度

令和3年に共有の所在不明者に関して民法が以下のように改正されました。
※令和5年4月1日から適用されます。

民法第262条の3

  1. 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
  2. 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない
  3. 第1項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
  4. 前3項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

内容は、
・共有者に所在不明者がいるとき、共有不動産全部を売却することを条件に所在不明者の持分も含めて全部を第三者に売却する権限を付与してもらえる裁判を請求することができる(所在不明者以外の共有者全員の賛成が必要)。
・相続で共有になっている場合は、相続開始から10年間は上記の裁判はできない。
・売却後、所在不明者であった者は権限を行使した共有者に不動産の時価相当額を持分割合に按分した額を請求できる。

※譲渡権限の付与を請求した共有者自身が譲受人(1項で言う特定の者)になることはできないとされています。

所在不明であるかの判断は最終的に裁判所が行いますが、一般的には登記簿や住民票に記載されている住所に住んでいなかったりといった公的記録を調査し、その住所に当該共有者が居住していなくその所在が不明であるような状況が該当します

持分譲渡権限付与の裁判

譲渡権限付与を求める請求(裁判)は不動産所在地管轄の地方裁判所にします。
請求後、裁判所によって3ヶ月以上の公告(請求があったことを公に通知する)が行われます(所在不明者に対する手続保証です)。

裁判では、所在不明者が後日現れたときに持分の代金を取得できるようにするため、相当額を供託することが求められます。

また、裁判で認められた権限付与の効力は裁判後2ヶ月とされ、2ヶ月を経過すると権限の効力は消滅します。
つまり、2ヶ月以内に第三者への譲渡を完了する必要があります(伸長は可能)。

まとめ

現状(令和4年時点)では共有者に所在不明者がいる場合、所在不明者の持分も含めて所有権全部を第三者に売却することは簡単ではありません。
不明者に替わる不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらう場合、申立、管理人の費用等々、時間もお金もかかり、また、選任された不在者管理人が売却に同意する確証もありません。

不明になって7年経過していれば失踪宣告をして法律上死亡したものとすることができますが、不明者の相続人が新たな共有者となるのでその人達と協議しなければいけません。

このように現状は簡単ではありませんが、令和5年4月1日以降は所在等不明共有者に関する民法改正法が適用され共有者に不明者がいても比較的簡単に現存共有者によって不明者の持分を含めて不動産の全部を売却することが可能となります。

ただし、手続きには裁判所での裁判が必要になりますので、司法書士や弁護士にご依頼することをおススメします。