公正証書遺言

遺言書にはいくつかの種類がありますが、一般的な遺言書としては自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類になります。

自筆証書遺言は、全部を自身で手書きし日付、署名、印をして作成します。
令和の改正で、財産目録部分だけは印字でも可をされました(印は必要)。

公正証書遺言は、遺言する内容を公証人に伝えて公証人が公正証書として遺言書を作成します。
1部は公証役場に保管され、紛失、偽造を防ぐことができます。

相続争い・・・・・・・
遺言書がない場合、全相続人間で遺産分割協議を行うことになりますが、相続割合で折り合いがつかず争いになってしまうと、申立により家庭裁判所で調停、審判されることになります。
家庭裁判所で争われるのは遺言書がないケースが多いですが、中には遺言書があってもその形式、内容、作成した当時の意思能力の有無等について争われたりします。

遺言書をめぐる争いは、自筆証書遺言に関する法定された書式を知らない方が1人で作成された場合に生じやすいです。
公正証書遺言は公証人が作成するので、書式を間違う事はありませんし、内容についても質問すればアドバイスしてくれます。また、対面で遺言作成者の意思能力も確認されます。
遺言書を作る場合、あとあとのトラブル防止のためにも公正証書で遺言を作成することが推奨されます。

このように、公正証書遺言は有効性、安全性、脱紛争性が高い遺言書ですが、全く問題ないかというとそうでもありません。
公正証書遺言に関する問題点について司法書士が解説します。

公正証書遺言を無効となったケース

公正証書遺言でも、その有効性が裁判で争われ無効と判決される場合があります。

無効とされた原因は、意思能力が欠如していると判断されたケースが圧倒的に多いです。
遺言書の作成段階で公証人が遺言者の意思能力を確認することになっていますが、適切に行われていなく、結果、作成時には意思能力はないとして無効とされています。

これは、公正証書遺言作成時に意思能力に問題があるかもと疑わしい状況においても、基本的には手続きを中止することなく進めることにあるように思われます。

ケース1

認知症的行為が見られるパーキンソン病に罹患して高齢男性が入院中に作成した公正証書遺言が、東京地裁により作成時に意思能力が無かったとして無効と判断されました。

公証人が病院まで出向き、あらかじめ相続人である妻と税理士が準備した原案を公証人が男性の前で読み上げ、「ハイ」と応答したことをもって意思確認とし公正証書遺言を作成したものでした。

公証人自身、遺言者の意思能力に疑問を感じ医師にも確認したようですが、最終的にそのまま手続きを進めて公正証書遺言を完成させました。

ケース2

アルツハイマー型認知症に罹患している高齢女性の公正証書遺言が、横浜地裁で無効と判断されました。

話しかければ簡単な応答ができる程度の状態で、相続人となるうちの1人の子Aと信託銀行が主体となって全ての財産をAに相続させるとする原案を作成し、公証人が遺言者の前でそれを読み上げ「ハイ」と応答するだけの意思確認で作成したものでした。

ケース3

養護老人ホームに入っていた方が公正証書遺言を作成。
遺言書には、自分の葬儀と納骨費用を除いた財産の全部を自分が入所している施設に遺贈すると書かれていました。遺言書の最後に「付言事項」として、施設の園長に遺贈したお金から自身のお子さん(長男、長女、共に精神疾患により入院中)の入院費用や生活費、死んだときの葬儀費用を払って欲しいとの願いを記載していました。
※「付言事項」に書かれている内容はお願いベースであり、相続人や受遺者は従う必要ありません。

この遺言書に従えば施設側には、故人のお子さんに費用を支払う義務はないことになるので、お子さんから遺言書無効の訴えがありました。

さいたま地裁は、故人は子供達の生活を心配しており、付言事項に書かれたことに法的拘束力がないと知っていればそのような内容の遺言書が作成しなかったとして錯誤により無効と判断しました。

まとめ

公正証書遺言の無効判決のほとんどは、ケース1,2のように意思能力が問題になっています。
ケース3は、特殊なケースと言えるでしょう。精神疾患を患っているお子さんの状態を考慮すると、自身の遺産をお子さんに相続させるのが普通と考えられるところ、それを敢えて、一般の方にはあまり知られていない法的拘束力のない「付言事項」で書かれていたことに、故人の意思によらない第三者の意図を裁判所は感じたのかもしれません。

これらのケースのように、判決文を見る限り、当時、故人は認知症にかかって明らかに意思能力に問題があると思われる状態でも、公証人は公正証書遺言を作成しています。
公証人にとって、手続きを途中で打ち切ることは心理的にハードルが高いことかもしれません。

公正証書遺言でも裁判により無効とされることがあります。
遺言者の意思を受けて遺言書の作成をサポートされる親族等は、遺言者に意思能力に問題が見受けられる場合は、事前に医師の診断を受け診断書を保管していおく等の事前準備が重要になります。