荒地

相続登記をしていないおじいちゃんやひいおじいちゃん名義の土地がありませんか?

昭和の時代に亡くなったひいおじいちゃん名義の土地がそのままになっている。
別に今のままで支障ないし、必要になれば相続人同士で話し合って決めればいい、、、と思われているかもしれませんが、あなたが考えている相続人・・・違うかもしれませんよ。

「家督」という言葉を聞かれたことがありませんか?
時代劇で聞いたような、大昔のことでしょ・・と思われていませんか?

「家督制度」は江戸時代や明治時代の制度と思われている方もおられますが、実は、昭和22年まで続いていた制度です。

昭和22年5月3日に敗戦により新憲法が施行され、それに伴い旧憲法が廃止、旧憲法で規定されていた「家督制度」も廃止されました。

これは何を意味するかと言うと、
昭和22年5月2日以前に亡くなられた方の相続手続きは、旧憲法下の「家督制度」が適用され、5月3日以降に亡くなられた方には新憲法での相続手続きが適用されるということになります。
※5月3日以降に亡くなられた場合でも、当時の相続法は現在と異なるので現在の相続法をそのまま適用することにはなりません。

今回は、この「家督制度」による相続について司法書士が分かりやすくご説明します。

家督制度とは

昔は個人より家が重視され、家を存続させるための相続として男性、先生まれを優先して「長男が全てを相続する」いわゆる総取りが基本でした。
この総どり形式が家督制度です。

娘はもちろん、次男以降の男子にも相続権はありませんでした。
※男子がいなく娘だけの場合、長女を戸主(女戸主)とすることも認められていました。

例えば、男子がいなく家督をつがせるために養子をとったが何かの理由でその者と離縁する場合、その養子は当然に家をでていくことになりますが、その養子に子がいてその子が養家の推定家督相続人であれば、基本的には養家にとどまる、といったように全ては「家」が中心でした。

このように、昔は「家督制度」により「家」が絶対的であり、家の主(家長)である「戸主」も家族の入籍、婚姻、養子縁組等に対する同意権があったりして力は強力でした。

時代劇で侍が「お家のために・・・」というセリフを言ったりしますが、まさに制度も「お家大事」でした。

家督相続が開始されるケース

いろいろなのケースで家督相続が生じますが、主な状況として以下の3つがあります。

  1. 戸主が死亡した。
  2. 戸主が隠居した。
    戸主が生前中に戸主権を放棄(隠居)し、次の家督相続人に戸主の地位を承継させることで家督相続が生じます。
  3. 女戸主が入夫婚した。
    女戸主が婚姻して夫が妻の家に入ると、夫が新たな戸主として妻から家督相続することになります。

家督相続の順位

家督相続人は以下の順番で決められます。

  1. 直系卑属
  2. 被相続人が指定した者
  3. 父、母または親族会が家族の中から選定した者
  4. 直系尊属
  5. 親族会が被相続人の親族等から選定した者

直系卑属

直系卑属とは、自分⇒子⇒孫⇒ひ孫と下の世代のことを指します。
家督相続では、直系卑属間での優先順位も規定されています。

1.近親⇒2.男子⇒3.嫡出子⇒4.年長者の順で優先して相続されます。

  1. 近親とは親(戸主)に近い卑属、つまり、孫より子、ひ孫より孫が優先されます。
  2. 男子が優先されます。弟が姉に優先して戸主に、娘ばかりの戸主が男子の養子を入れると、この男子が優先されます
    また、戸主の長女より庶子(妻以外の女性との間の男の子)が優先します。
  3. 妻との男の子(嫡出子)が優先します。年上の庶子がいても嫡出子が優先します。

指定家督相続人

戸主が死亡又は隠居したが第1順位の直系卑属がいない場合、被相続人である戸主が指定した者が家督を相続することになります。
指定は生前に、又は遺言で行われます。
※家督相続人の指定後に法定の推定家督相続人が出現すると自動的に指定は効力を失います。
例)指定したのち、実子である男の子が生まれた。

父、母、親族会による選定

第1、2順位の家督相続人がいない場合は、父、母、親族会にて被相続人の家族の中から家督相続人を選定します。
選定方法としては、被相続人(戸主)の父がいれば父が、いなければ母が、母もいなければ親族会で選定します。

直系尊属

第3順位の選定がされなかった場合、戸主の尊属(父母、祖父母と上の系譜)が男子優先で家督相続します。
隠居した前戸主も対象になります。

親族から選定

直系尊属もいない場合、親族会がもっと対象を広くして家督相続人を選定します。
分家の家族も含めて選定し、いなければ他人を選定することも可能です。

以上の手順を踏んでも家督相続人が選定されなかった場合は、「絶家」となります。
この場合、家督財産は国庫に帰属されることになります。

家督相続が生じている場合の相続手続き

不動産の名義人が昭和22年5月2日以前に亡くなられた方のままである場合、家督制度による相続手続きが適用されます。

登記も当然、この家督制度に従ってなされるので亡くなられた方の家督相続人に家督相続を原因とする相続登記をすることになります。
兄弟姉妹等との遺産分割協議は必要ありません。家督相続人の総どりです。

家督相続が発生した場合、その旨が戸籍に記載されているので戸籍に従って戸主になった人が相続することになります。
記載されていない場合でも、法定家督相続人の分かる戸籍、除籍謄本を提出することで相続登記は可能です。

そして、その方も既に亡くなられていたら、どうするか?

同じように、その方の死亡年月日を確認し、昭和22年5月2日以前であれば家督相続、5月3日以降であれば死亡時に有効であった民法の内容に従って相続登記することになります。
※相続法は何回か改正されていますので、死亡時の相続法に基づいて相続手続きをすることになります。

家督相続の適用外その1

昭和22年5月2日以前に死亡されていても、以下の場合は家督相続ではなく旧民法における遺産相続が行われます。

  • 家族(戸主でない者)が自己の名で取得した財産
  • 隠居者が留保した財産(隠居後の生活等のため)、隠居になってから取得した財産
  • 入夫婚で女戸主が留保した財産、女戸主が婿に承継した後に取得した財産

この場合、旧民法で規定されている以下の順位に従って法定相続人に遺産相続を原因として相続登記することになります。

  1. 直系卑属
    男女の別、長幼の別、嫡出・非嫡出の別、実子・養子の別は問われません。相続分は各自均等ですが、非嫡出子だけは嫡出の2分の1になります。
  2. 配偶者
  3. 直系尊属
  4. 戸主

※兄弟姉妹による相続は認められていません。
家督相続とは異なるので、相続人全員(代襲相続人も含む)による遺産分割協議により自由な割合で相続することもできます。

家督相続の適用外その2

昭和22年5月2日以前に戸主が亡くなっていても、家督相続ではなく新民法が適用される場合があります。

  • 第1順位の法定家督相続人及び第2順位の指定家督相続人はいないが、第3順位の選定家督相続人になり得る家族(配偶者、兄弟姉妹等)がいる状況。
  • 第1、2、3、4順位の家督相続人になり得る者がいなく、第5順位の家督相続人を選定しなければいけない状況。

上記に該当する場合は、家督相続ではなく新民法が適用されます。
例えば、名義人である戸主は昭和22年5月2日以前に亡くなっているが、戸主には第1順位推定家督相続人となる子や選定家督相続人はいないが妻と兄弟姉妹がいる場合、相続は新民法に従って妻と兄弟姉妹が共同相続することになります。

昭和22年5月3日以降に亡くなられている場合の手続き

戸主が昭和22年5月3日以降に亡くなっている場合は、家督制度は適用されません。
亡くなられた年月日によって各改正相続法が適用されます。※改正により、相続人の範囲、相続割合が異なります。

  • 昭和22年5月3日~昭和22年12月31日に死亡
    配偶者 : 直系卑属
    1/3 : 2/3
    配偶者 : 直系尊属
    1/2 : 1/2
    配偶者 : 兄弟姉妹
    2/3 : 1/3

    ※兄弟姉妹の子は代襲相続人になりません。

  • 昭和23年1月1日~昭和55年12月31日に死亡
    配偶者 : 直系卑属
    1/3 : 2/3
    配偶者 : 直系尊属
    1/2 : 1/2
    配偶者 : 兄弟姉妹
    2/3 : 1/3

    ※兄弟姉妹の卑属(子、孫等々)は代襲相続人になります。

  • 56年1月1日以降に死亡
    配偶者 : 直系卑属
    1/2 : 1/2
    配偶者 : 直系尊属
    2/3 : 1/3
    配偶者 : 兄弟姉妹
    3/4 : 1/4

    ※兄弟姉妹の子までが代襲相続人になります。

まとめ

以上の通り、昭和22年5月3日を境に相続は大きく変わりました。

しかし、この日以前に亡くなった方の相続手続きは当時の制度が適用されるので非常に複雑になります。
誰が家督相続人になるのか?
家督制度の適用外ではないか?
等々の正しい判断が求められます。

家督制度があった時代には、跡継ぎとしての養子縁組も珍しくなく、実子、養子、継子、庶子等々の相続手続きも難しく専門家の関与が必須になります。

これらの相続手続きには、大昔まで遡って戸籍を調査しなければいけません、
何代にもわたって相続が発生しているので関係者も多く、資料も膨大になり手続きは専門家である司法書士にとっても簡単ではないケースがあります。

ひいおじいちゃん名義の土地の買い手が見つかった。売るために相続登記の手続きをしたが、かなり時間がかかってしまい売買の話しもいつのまにか消えてしまった・・という事にもなりかねません。

時間の余裕があるときに、専門家である司法書士にご相談下さい。