遺書とは
相続争いは多額の財産がある人だけの問題ではありません。
遺言書が無ければ、相続は全相続人での話し合いで決めることになりますが、話し合いがまとまらなければ家庭裁判所で調停を行うことになります。
家庭裁判所に持ち込まれる遺産紛争の75%は遺産総額が5,000万円以下、1,000万円以下に限定すると全体の約30%に及びます。
家庭裁判所に持ち込まれてしまうほどもめた額の3割が1,000万円以下、この数字から容易に想像できることは、遺産額の多少に関わらず家庭裁判所までいってはいないが、話し合いでもめて大きなしこりを残し、その後の関係に大きく影響してしまうケースが数多くあるということです。
自分の人生を通して築いた財産が、残された大切な家族のもめ事の原因となる・・あってはならない事ですが、争族という言葉があるように普通にあるのが現実です。
当事者たちにとって、相続はとても扱いずらい問題です。妻や夫、子供に自分がいなくなったときの相続について普段、話されている方は多くないと思います。子供の方からも言いずらいものがあります。
であれば、ご自身の遺志を残されたご家族にしっかり伝える手段として遺言書を残しておくことが重要になります。
相続紛争防止としての遺言書
遺産は故人が築いた財産なので、その分配は故人の遺志が尊重されます。
遺志を表示した遺言書がなければ相続人全員が協議で決めることになりますが、この協議で争うことになります。
争いの元になる協議を避けるためにも、しっかり遺言書で自身の遺志を示すことが重要です。
有効な遺言書があれば、内容に不満がある相続人がいても従わざるを得ないので、相続人間の言い争い、調停、審判等の泥沼の紛争になることを防げます。
遺言書に〇〇〇と書かれているから仕方ない・・と諦めていただくことで、感情も抑えられ今後も親族としての関係を継続していきやすくなるでしょう。
これが、遺言書の大きな効果です。
注意すべきは、遺言書を書けば全てOKというものではありません。
遺言書があっても、遺言書の有効性、内容が争点となって裁判になった事例はいくつもあります。
折角、書いた遺言書が無効になっては意味がありません。
守るべき形式、考慮すべき遺言内容等々、当事務所にご依頼いただければしっかりサポートさせていただきます。
遺言書の種類
普通形式の遺言書には以下の3種類があります。
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言
他に特別な状況で作成する遺言書もありますが、一般的な遺言書としては上記3種類になります。
自筆証書遺言
ご自身で全てを自筆で書く遺言方法です。
お一人で、いつでも、どこででも書くことができる一番容易な遺言書作成方法です。
しかし、容易な分だけ後で内容が紛争の元となったり、形式不備により無効になったりするおそれもあるので注意が必要です。
公正証書遺言
遺言書の中では最も確実性の高い遺言方法です。
公証役場に行き、公証人に遺言書を作成してもらう手続きです。
ただし、戸籍謄本や固定資産税評価額等の書類や2人の証人等、それなりの準備が必要になります。
秘密証書遺言
公証人を介した秘匿性のある遺言書です。
遺言書は自身で作成し、本人及び2人の証人の前で遺言書を入れた封書に、公証人が遺言者が作成した遺言であること等を記します。
遺言書の内容は公証人、証人に知られることはないので、内容を誰にも知られたくない場合にします。
自分で作成し、自分で保管する等、自筆証書遺言と大きな違いがなく現状あまり利用されていません。
遺言書の内容次第でトラブルに
遺言書の書き方については市販本も多数出回っています。
書式に関する決まり事を守って、各相続財産を明記し、「〇〇に相続させる」「△△に遺贈する」と書けば良い、そんなに難しくない、と思われかもしれません。
何もなければ問題はないのですが、内容によってはその後の状況の変化や相続人の事情等によりトラブルになることもあります。
安易な「相続させる」遺言の落とし穴
相続が争族にならないように、各遺産毎に誰に相続させるかを決めておく遺言書は多いです。
「遺留分」を考慮した上でこのような遺言書を作成しておけば、相続分が相続人間で違っても遺言書の通り手続きするほかなく、無用な争いを防ぐことができます。
しかし、単に「甲土地は長男Aに相続させる」と書くと、問題が発生する「可能性」があります。
遺言者より先に亡くなる
予想したくないことではありますが、遺言者がご高齢の場合、そのお子さんもある程度の年齢になられているので、遺言者より先に亡くなるという事態が生じ得ます。
もし、遺言者よりAが先に亡くなった場合、「Aに相続させる」とした甲土地はどうなるか?
遺言者としては、Aに子どもいれば、その子(遺言書の孫)に甲土地を渡したい、と思うかもしれません。
しかし、この場合、甲土地はAさんの子供がAさん代わって相続することはできません。
処分方法が決まっていない遺産として、相続人全員で分割方法を決めることになります。
Aさんのお子さんは、Aさんの代襲相続人として遺言者の遺産相続人になりますが、父親が生きていたら父が相続した甲土地を叔父さん、叔母さんと協議して決めることになります、
こうならない対策として、予備的に遺言者より先に(又は同時に)Aがなくなった時はAの子が相続するように記載しておきます。
欲しくない遺産
「相続させる」とする遺言の効力は、最高裁で相続発生と同時に相続人に直ちに承継されると示されました。
つまり、Aが甲土地の相続を望んでいようがいまいが、遺言者が亡くなると同時に自動的にAが相続し、Aが所有者となります。
例えば、甲土地は農地で長男Aは必要ないが、父の後を継いで農業をやりたい思っている次男Bは甲土地を欲しいと思っていて、AとBが話し合って甲土地はBが取得すると決めた場合どうなるか。
基本的には、最高裁の判例に従って、一旦、Aが甲土地を相続した後、Bに贈与する、という形になります(※注)。
ここで大きな問題になるのが、贈与税です。
相続税に比べて効率な贈与税を支払うことになります。
もし、Bが相続として甲土地を取得したら、控除の範囲内であれば相続税はかかりませんし、相続税がかかったとしても贈与税より低率です。
「Aに相続させる」としたために、相続人は余計な税金を支払わなければいけない、という事になるかもしれません。
※注)遺産分割協議を行って相続人全員が同意すれば、相続させる遺言と異なる遺産分割ができる、とする考え方もありますが、明確な判断基準はないので、慎重に検討する必要があります。
適切な遺言書
このように、遺言書を作成する場合、作成時の状況だけでなく、将来起こりうる問題点も検討した上で、しっかり対策を講じた適切な遺言書を作成することが重要です。
遺言書については、相続の専門家である司法書士にご相談下さい。
初回のご相談は無料です。
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