
新婚当初は賃貸住宅に住み、夫婦2人でやりくりして頭金を貯め、40歳手前でローンを組んで戸建てを購入。
子供が生まれ育児に、そして成長して社会人になり独立。
互いに高齢者になり夫婦2人で過していた中、夫が亡くなった。
悲しみから立ち直り今の家で老後を穏やかに暮らしていこう・・と、思っていても、相続で家を手放すことになってしまう方がおられます。
なぜこうなったのか?
防ぐにはどうしたら良いのか?
司法書士が分かり易く解説します。
家を失う相続
親子関係が円満で子が今の家に母が住み続けるの賛成していれば何の問題もありません。
また、父が家は母に相続させる旨の遺言書を書いていれば、母が家を相続することができます。
※ただし、万が一、子から遺留分を請求された場合のために、相当額を確保しておくことが大切です。
分かりやすい例として、
亡くなった父の遺産が家だけ、相続人は母と子1人のケースで検討します。
この場合、法定相続分としては母・子各2分の1になります。
遺言書が無ければ、この割合通りに遺産分割するか、または、話し合って母が全部相続することも可能です。
2分の1ずつ共有で相続したとしても、いずれは子が母の持分を相続するので、子が持分を持っても母が住み続けることを了承すれば何ら問題ありません。
母は安心して今の家を終の棲家として暮らすことができます。
しかし、現実はそういかないこともあります。
親子関係が微妙・疎遠・絶縁状態であったり、息子が妻の、娘が夫の影響を強く受ける関係であったり、夫が再婚で先妻との間に子がいるような場合、相続でもめて夫と暮らした家を失い思ってもいなかった老後に直面することになってしまうことがあります。
子供から「金銭」での遺産分割を要求されてしまうと、無ければ家を売却したお金で相続分を支払うことになってしまいます。
家の処分方法
不動産に絡んで相続争いが起きると、その不動産をどう分けるかが問題になります。
裁判になると、裁判所は以下の順に処分方法を検討します。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有(最後の最後)
現物分割は、分筆により不動産を分割して相続することです。
また、不動産がいくつかあれば、甲土地は長男、乙土地は次男が相続するような形で遺産分割します。
代償分割では、1人が不動産を相続し他の相続人には持分に応じた金額を支払うことで遺産分割します。1,000万円の価値のある家・土地を母が相続すると、500万円を子に支払うという形になります。
換価分割は、不動産を売却して各相続人に相続分に応じた売却額しはらうことで遺産分割します。
代償として子に相続分、遺留分額を払えなければ、家・土地を売却して子に支払うことになります。母は子に支払った残額を手にすることができますが、家は失うことになります。
共有は各相続人が相続分に応じて共有することになりますが、裁判所はできる限りこの方法を回避します。相続でもめている当事者を共有名義人にすると、いずれ当該不動産の取り扱い、処分でもめることは容易に予想でき、紛争の先送りに過ぎないからです。
上記の処分方法で、3の換価処分になってしまと、終の棲家であった家を手放すことになってしまいます。
換価分割
親を家から追い出して売却して、売却金額の一部を相続分としてもらう・・・
ひどい話しのように聞こえますが、めずらしい話しではありません。
今の家は古いし、修繕費・維持費もこの先かかる。
1人で住むのは大変だから賃貸アパート・マンションに住んだ方が良いと言って、中ば強引に子が家を売却して遺産分けをする・・というような事もあるでしょう。
平穏に暮らしておられる多くの方は、そんな事は滅多にあることではない、自分には全く関係ないと思われるでしょうが、そうでもないのが現実です。
相続争いで家を失う高齢配偶者対策として、国が新たに法律(配偶者居住権)を作ったことからも、そのようなケースが少なくないことが想像できます。
特に遺産の大部分が不動産であると、もめたときに換価分割になる可能性が高くなります。
子から法定相続分又は遺留分を強く主張され相続争いになってしまうと、他に遺産がなく自身に預貯金もなければ、泣く泣く家を処分して換価分割をすることになってしまいます。
家を失なわない対策
換価分割により家を失うことを回避する方法としては、以下の3つの方法が考えられます。
- 他の相続人の法定相続分(遺言書で家を相続する場合は遺留分)を準備しておく。
- 家を生前贈与してもらう(又は、遺贈してもらう)。
- 配偶者居住権を取得する。
- 家を家族信託する。
1.法定相続分・遺留分を準備する
相続分、遺留分に相当する金額を紛争相手に支払う(代償分割)ことで換価分割による家の処分を回避することができます。
遺産が不動産だけでなく預貯金等の金融資産もあれば、相手に相続相当分の金融資産を渡すことで家を保持することができます。
では、財産のほとんどが家・土地の不動産で、支払うべき相続相当分のお金がない場合はどうするか?
相続が発生してしまえば、どうすることもできません。無理をして相続相当分をどこからか借入れて支払ったとしても、返済に追われる毎日で平穏な生活どころではなく、最後は家を差押えられることになるおそれもあります。
こうならないために「事前準備」が必要です。
相当分を少しずつ貯めておくことができれば良いですが、経済的にあまり余裕がない状態であれば数百万単位のお金を貯めるのは易ではありません。
そこで、生命保険の利用をおススメします。
夫死亡時に、相続相当額の保険金を受け取ることができれば、もめた時にはそのお金を代償金として相手に支払うことで家を保持することができます。
2.生前贈与・遺贈する
令和2年より、配偶者に家を生前贈与又は遺贈すると当該家が相続財産から除外されるという規定が適用されることになりました。
家は生前贈与で妻の所有に、または、遺贈により夫の死亡と同時に妻の所有になり、相続の対象とはなりません。
よって、換価分割により家を処分するようなことはなく、従来通り今の家に住み続けることができます。
夫としては、自分が生きているうちに自分名義の家を妻名義に変更することに抵抗感を抱く方もいらっしゃると思います。
このような方は、自分の死亡と同時に家を妻のものとする遺贈を検討して下さい。
また、生前贈与、遺贈と聞くと、贈与税が高額になるのではと心配されると思いますが、税制面でも優遇措置が設けられています。
最大2,110万円(110万円の基礎控除含む)までは非課税です。
家には相続税もかかりません。
ただし、適用を受けるには以下のような条件があるのでご注意下さい。
- 婚姻期間が20年以上の夫婦(内縁関係は不可)である。
- 贈与財産が自分が住むための国内の居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭である。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された居住用不動産または、贈与れた金銭で取得した不動産に受贈者が住んでいて、その後も引き続き住む予定である。
配偶者居住権
配偶者居住権も、令和2年に民法改正で創設された新たな権利です。
配偶者居住権とは、残された配偶者が追い出されることなく今の家に無償で住み続けられる権利です。
家に対して所有権と配偶者居住権の2つの権利を認め、配偶者居住権を得た配偶者は生涯今の家に平穏に住み続けることができます。
例えば、遺産が家だけの場合、子から相続分を要求されると、家の所有権を子に、母は居住権を取得することで家を処分せずに済むことができます。
ただし、この配偶者居住権は住み続ける権利なので、家を売却することはできません。
のちのち介護施設等へ入居する際、家を売って入居費用に充てるということができません。
家を増改築したり、第三者に賃貸するような場合は、所有者である子の承諾が必要になります。
また、この権利は配偶者であれば当然に得られる権利ではなく、権利を取得するには故人から遺贈されるか、他の相続人全員の了承が必要です。
もめる、親の住む家を処分して自分の相続分を得る、このような状況では、了承を得ることは期待できないので、事前に夫と話し合ってこの権利を遺贈するような遺言書を作成しておくことが重要になります。
遺産が不動産のみの場合、家を妻に相続させる旨の遺言書を残しても、他の相続人から遺留分を請求され支払う金銭がなければ家を処分することになります。
このような時は、配偶者居住権の遺贈をご検討下さい。
家を家族信託する
夫が家を信託財産として家族信託をすると、家は夫の個人的な財産から離れて信託産として存在することになります。
受益者を妻として、信託終了を妻の死亡と設定していれば、妻は生涯今の家に住み続けることができます。
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