
相続の相談の際、「私は相続放棄をしました」とお話しする方がおられます。
家庭裁判所に行かれましたか? とお尋ねすると、
??????
遺産は一切いらないと記載した書類に実印を押し、印鑑証明書も渡しました、と話されます。
なるほど・・・・・・
多くの方がこれにより自身が相続放棄をして故人の相続と関係なくなったと思われています。
上記で話された方が実印を押印した書類は、遺産分割協議書というものです。
相続人間で作成した遺産分割協議書にて相続(遺産を受け取ること)を放棄した場合、それは法律的には相続放棄ではなく、「相続分の放棄」になります。
「相続分の放棄」と「相続放棄」は似ているようで似ていない。
「分」が付いているかいないかで自分に降りかかってくる責任が大きく変わるので注意が必要です。
相続分の放棄とは
遺言書があればその内容に従って遺産を分けていきます。
ない場合は、相続人全員で協議をして分配方法を決めていくことになります。
協議で「私は故人の遺産は一切要りません」とし、他の相続人への分配方法及び自身は遺産を受領しない旨の内容が記載された遺産分割協議書が作成され、各自が実印を押すことでその内容が「相続人間で確定」します。
注意すべきは、あくまでも相続人間で確定する、、という事です。
この土地は長男が、あの土地は次男が、預貯金は兄弟姉妹全員で均等に分ける等々。
全然問題ありません、自由に相続人間で話し合って決めることができます。
相続人以外の人には全く影響ない話しです。
しかし、故人が借金をしていたら、連帯保証人になっていたら話しは変わってきます。
例えば、WさんはAさんに500万円を貸している。
WさんはAさんに財産があったので、安心して500万円を貸していた。
返済期日前にAさんが亡くなった。
Aさんの相続人はB、C、Dさん3人のお子さん。
遺言書がなかったので、3人のお子さんで遺産分割協議をしてAさん所有の土地等不動産はBさんが、現金預貯金はCさんが、Wさんからの借金はDさんが受け継ぐことに決めたとします。
Wさんとしては、財産持っているAさんにお金を貸したのに、Aさんの財産を取得しなかったDさんが1人で借金を受け継ぐことには納得いかないでしょう。
このように、借金のようなマイナスの遺産については相続人だけで相続方法を決めることはできません。
では、どのように分けられるかというと、法定相続割合になります。
法律で自動的に振り分けられることになります(法定相続割合に従って返済義務を負います)。
つまり、故人のプラスの財産(不動産や現金、預貯金等)は相続人間で自由に分配方法を決めることができ、その際、「私は故人の遺産は一切要りません」という宣言は、「私は故人のプラスの遺産は一切要りません」という意味になります。
これを「相続分の放棄」と言います。
そして、相続分の放棄をした人はプラスの遺産を取得しませんが、マイナスの遺産は法定相続割合に従って受け継ぐことになります。
相続争いに関わりたくない、故人とは疎遠だったので相続に関わりたくない等々で故人の遺産は何も要らないとして、その旨が記載された遺産分割協議書に実印を押しただけでは故人のマイナスの遺産からは逃れられません。※借金の遺産分割協議は原則認められませんが、貸主が承諾すれば有効になります。
マイナスの遺産から逃れるには「相続放棄」が必要です。
相続放棄とは
まず、相続放棄=家庭裁判所と認識下さい。
相続放棄は家庭裁判所に所定の書類「相続放棄申述書」を提出し、受理されることで成立します。
書類は家庭裁判所に行けばもらえますし、インターネットで裁判所のHPからも書式をダウンロードしてプリントアウトすることもできます。
※自分に相続があったことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄手続きをする必要があります。
家庭裁判所と聞くと何か敷居が高いというか、難しくお考えになる方もおられるかもしれませんが、難しいことは全くありません。
以下が実際の申述書です。(裁判所HPより)
家庭裁判所に上記申述書に記入して提出する際、故人の除籍謄本・改製原戸籍・住民票の除票、相続人の戸籍謄本等の書類は必要になります。
書類は誰が相続人であるかで変わってきます。
いといろなケースで必要な書類の一覧が裁判所HPに掲載されていますので参照下さい。
裁判所HPはこちらへ
必要書類を添付して相続放棄申述書を家庭裁判所に提出すると、暫くして家庭裁判所から照会書が送られてきます。
相続放棄申述書があなたの名前で提出されましたが間違いないですか?等々いくつかの質問が書かれた書類が送られてきますので、回答を記入して返送します。
その後、相続放棄が受理された旨の通知書が送付されたら手続き完了です。
※他の相続人が故人の不動産の相続登記をする際、相続放棄した方の相続放申述受理証明書が必要になります。