
遺言書がある場合、遺言書に書かれている内容に従って相続手続を行うことになります。
遺言書で財産を特定の相続人に承継させるには「甲土地をAに相続させる」というように、いわゆる「相続させる遺言」を作成します。
相続は相続人が行うものなので、相続人以外の者に財産を渡したい時は、「甲土地をAに遺贈する」と書きます。
このように相続人以外に対して遺産を渡す場合は「遺贈」という形になります。
相続人は、故人が亡くなると自動的に相続人として遺産を承継する立場になりますが、遺贈の相手である受遺者は、通常、遺言者に遺贈相手として遺言書に書かれることで遺産を承継する立場になります。
相続人は血縁関係によりなるのですが、受遺者にとっては、遺言書の遺志によってその立場になります。
事前に聞かされている場合もあるでしょうが、聞かされていなければ突然、故人の遺産を贈られることになります。
現金、預貯金であれば問題にはならないでしょうが、不要な土地であったり、借金であったりが対象となる場合もあります。
受遺者に指定されたが、承継したくない、受取たくない、というような場合の対処方法を解説します。
遺贈の種類
遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
遺言書で遺贈する方法の違いにより分かれます。
包括遺贈
包括遺贈とは、遺産を包括的に特定の者(相続人も含む)に包括的に遺贈すること言います。
例えば、「Aに遺産の全部を遺贈する」「Aに遺産の2分の1を遺贈する」と記載された遺贈は、「包括遺贈」になります。
特定遺贈
特定遺贈は、対象を特定して遺贈すること言います。
例えば、「Aに甲土地を遺贈する」というような記載が該当します。
遺贈と相続放棄
相続人でもない第三者が故人の遺言書で受遺者に指定された場合どうするか。
事前に知らされている場合であればともかく、知らない状態でいきなり遺言書に受遺者されたら、それに対して何かしないといけないのかが気になると思います。
勝手に受遺者にされた者は、そんなの知らない、と無視したくなる気持ちは十分理解できますが、そういかないのが法律の世界です。
民法990条に「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と規定されています。
この規定により、遺言書で「包括受遺者」に指定されると、法定相続人のように権利に併せて義務も承継することになります。
権利として遺言書に記載された遺産を受け取ることができるが、同時に、故人が負っていた義務も相応して引き継ぐことになります。
例えば、遺言書に相続人でないAに対して「相続財産の全部をAに遺贈する」と書かれていたら、Aは血縁関係にない他人である故人の財産を受け取ると同時に、故人が借金を抱えていたら、その借金も承継することになります。
遺贈の対象が財産の2分の1であれば、借金も2分の1承継することになります。
プラスの財産が多くて、借金を支払っても余るような状態であれば問題ないでしょうが、借金だけしかないよう場合であれば、受遺者としてはたまりません。
そこで、受遺者も相続人が相続放棄できるのと同様に、遺贈を放棄することができるとされていますが、「包括遺贈」と「特定遺贈」では相続放棄の適用要件が異なるので注意が必要です。
包括遺贈での相続放棄
民法で包括遺贈は相続人と同様の扱いを受けるので、相続放棄に関しても相続人と同様の要件が適用されます。
相続放棄をするのであれば、自分に遺贈があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続をしなければいけません。
3ヶ月を経過してしまうと、遺贈を受けたことになります。
相続と同様、故人に借金があれば遺贈の割合に従って借金の返済義務が発生してしまうので、面倒ではありますが、放棄するのであれば家庭裁判所にいって手続きをしなければいけません。
特定遺贈での相続放棄
特定遺贈に関しては、民法986条の「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」が適用されます。
包括遺贈のように3ヶ月の期間制限はありません。
いつでも放棄できるので、ほっといても良い、ということにもなります。
ただし、いつまでのほっとかれると対象となる遺産が宙に浮いた状態になり処分できないので、遺贈義務者(相続人や遺執行者等)や利害関係人は、受遺者に対し相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる、とされています。
期間内にどちらを選択するか意思表示をしなかったら「遺贈を承認したもの」とみなされるので、放棄するのであれば、その旨の意思表示をしなければいけません。