相続人廃除
「私の財産を○○には一切相続させない」
と思われている方もおられるとも思います。親子関係はいろいろ、親子の数だけ関係も違います。
経験した当事者にしか分からないこともたくさんあるでしょう。しかし、相続させないようにするのは簡単ではありません。
相続させない遺言書を作成していても、子や親には「遺留分」という権利が認められていて、彼らがその権利を主張すれば法定相続分の2分の1(相続人が親のみであれば全部の3分の1)を遺産として取得することができます。
どんな関係であっても、子、親である以上、最低の相続分を法律は規定しています。遺言書以外に方法は無いか?

今回は相続財産を特定の相続人に渡さない方法として、相続人の廃除等について司法書士が解説します。

相続させない方法

相続人に遺産を一切相続させないようにする方法として、

  1. 相続人の廃除
  2. 相続欠格
  3. 遺留分の放棄
  4. 遺言書
  5. 生前贈与
  6. 家族信託

相続させない相手が兄弟姉妹であれば、4の遺言書にその旨の内容を書けば済みます。
相手が親、子であれば、4~6はどうしても遺留分問題がかかわってきます。
3では、遺留分請求はできなくなりますが相続人の地位は保持されたままですし、なにより、申立は放棄する相続人自身しかできないので、放棄するかどうかは相続人任せとなってしまいます。

「一切」相続させない・・とするには、1,2の状況が必要になるでしょう。

相続人の廃除

相続人廃除という制度は、言葉の通り法定相続人としての地位を廃除します。
廃除された相続人は、相続人ではなくなるので故人(被相続人)の財産を一切相続することはできなくなります。

廃除された人の戸籍に、その旨が記載されるほど厳格な手続きになります。

廃除の手続き

相続人廃除手続きは、家庭裁判所で行われます。
所定書類を家庭裁判所に提出、申立を行ない、家庭裁判所が審判を行い廃除の適否を判断します。

申立できるのは、被相続人に限定されています。
相続人が他の相続人を、利害関係人が相続人を廃除する申立はできません。

申立方法は2通り。

  1. 被相続人が生前中にみずから申立てる。
  2. 被相続人が遺言書に廃除する旨を記載し、遺言執行者が家庭裁判所に申立てる。

相続人廃除の要件

相続人の廃除に関して民法第892条で以下の要件が示されています。

  • 被相続人に対して虐待をした。
  • 被相続人に対して重大な侮辱を加えた。
  • 推定相続人にその他の著しい非行があった。

読んでお分かりのように、何をもって「虐待」「侮辱」「著しい非行」と判定されるかは分かりません。
裁判官の判断に委ねることになります。

過去に認められた事例として

  1. 相続人が借金を重ね、相続人の債権者が故人宅へ押しかけたり、2,000万円近く返済を肩代わりさせたり、長年、相続人の借金に苦しめられたことは、相続人の「著しい非行」にあたるとした。
  2. 借金や交通事故の賠償金を故人に負担させ、窃盗を繰り返し収監中である相続人の行為は「著しい非行」にあたるとした。
  3. 高齢で病気がちであった故人の面倒を見ず、早く死ねばいい等の罵詈雑言は「重大な侮辱」の該当するとした。
  4. 60を超えていた父に対して数回暴力をふるい、肋骨骨折等全治3週間のケガを負わせた子に対して相続人廃除を認めた。

問題点1

上記の様に相続人の廃除が認められた事例は少ないです。
相続人廃除の一番の問題点は、基本的に認められにくいことです。
本来認められている相続権をはく奪するので、裁判所も慎重に判断します。

申立を成功させるには、先に述べた3つの要件に関する証拠を集め、十分な資料と共に申立することが重要です。

問題点2

審判により特定の相続人の廃除が認められても、代襲相続まで否定されません。
つまり、廃除された者に子がいれば、その子が代襲相続人として親に代わり相続する権利を取得します。

子及びその子(孫)の両方に対して相続人廃除の申立をすることはできません。
孫は相続人ではないので廃除申立の対象になりません。

代襲相続した子が幼少であれば、廃除された親が親権者として相続財産を管理することになり、廃除の効果が実質的に消滅してしまいます。

相続欠格

法律で規定されている相続欠格事由に該当すると、相続人としての権利を一切失います。
相続人の廃除と異なり、代襲相続も認められません。

欠格事由

第891条
次に掲げる者は、相続人となることができない。

  1. 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
  2. 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
  3. 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
  4. 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
  5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

上記の事由に該当すると、申立等する必要なく当然に失うとされていますが、明確な該当事由がなく(被相続人を殺害した等)本人が非該当を主張すれば、裁判で争うことになります。

該当事由を見れば分かるように、故人(被相続人)の意思で一切相続させなくできるのではなく、あくまでも相続人自身の問題ある行為が原因で相続権を失うということになります。