負担付遺言書

自分の財産を相続人や相続人以外に承継させる場合、相続人に対しては「相続」、以外の方に対しては「遺贈」と言います。

相続人間で相続割合を変えたり、相続人以外の方に遺産を渡そうと思えば、遺言書を作成する必要があります。
単に遺産の分割方法を遺言書に書くことが多いですが、条件等を付けて遺産を渡すように書くこともできます。

病気がちの妻の面倒を見ることを条件に、ペットの世話をすることを条件に等々、いろいろな条件(負担)が考えられます。

今回は、遺産を渡す際に一定の負担や条件を付けた遺言書を作成する際のポイントを説明します。

制限を付けた遺言書

遺言書で自分の財産をどのように相続させるかを書いた場合、それは遺言書作成者によって遺産分割方法が指定されたことになります。

「遺留分」を考慮することが必要ですが、作成者は自由に自身の財産の分割方法を決めることができます。

相続人だけでなく、血縁者でない第三者に対する財産承継(遺贈)も有効で、このとき、遺産を承継する側に一定の負担(条件)等を設定することが認められています。

相続人(受益相続人)に対しては負担(条件)付相続させる遺言を、相続人以外(受遺者)に対しては負担(条件)付遺贈を内容とする遺言書を作成することになります。

負担や条件の記載方法は、相続人に対するもの、受遺者に対するもので違いはありません。

ただし、負担等を付ける際は、遺言書が見られるときは作成者は亡くなっており当事者は作成者に内容を確認することはできないので、誤解、曲解されないように分かりやすく記載することが重要になります。

制限(負担・条件)について

民法は条文で相続で制限を付ける場合を「負担付遺贈」として規定しています。
受遺者は、遺贈された遺産の価格を超えない限度においてのみ負担した義務を行う責任を負うとしています。

条文にはありませんが、「相続させる遺言」も同様とされています。
※遺贈が前提なので、遺贈等しないで負担だけを負わす遺言をしても効力は生じません。

また、条文は「負担」について規定されていますが、「条件」を付けることも可能とされています。

負担と条件の違い

「負担」は受遺者(受益相続人)に一定の義務を負わせることを言います。
負担を内容とする遺言書は、故人が亡くなり相続が開始したと同時に効力が生じます。

一方、条件はその効果の発生ついては、「停止条件」と「解除条件」で異なります。

停止条件は、記載された内容を履行するまで遺産を取得することができず、履行まで遺産承継が停止されます。

解除条件は、記載された内容の履行を行い、その履行を怠ると遺産承継が解除されてしまいます。

このように「負担」に比べて「条件」は、停止されたり解除されたりして、その判定等も含めて取り扱いが容易ではないので、一般的には「負担」を内容とする遺言書の作成が多いです。

記載事例

負担付遺贈言では、「〇〇に〇〇を遺贈する。〇〇はこの相続の負担として、・・・・をする」等と記載します。
負担付相続では、「遺贈する」を「相続させる」と記載します。

受益相続人や受遺者が何かをする(負担)ことで遺産を渡すようなケースとして、以下が考えられます。

  1. 残された妻の面倒を見る、毎月生活費として一定額を渡す等
    面倒を見る対象が障がいをもったお子さんや親族等となることもあるでしょう。
  2. ペットを死ぬまで世話する。
  3. 故人の借金を清算する。等々

1のケースでは、面倒を見る内容として同居、扶養、生活費の支給、養護施設入居費負担等々、具体的に記載しておくことが大切です。
単に「扶養する」、「世話をする」とした場合、何をもって扶養、世話とするかであとあと相続人間でもめることもあるので、できる限り具体的に記載します。

2のケースでは、〇〇を飼育することを負担として〇〇を遺贈する旨を記載します。

3のケースでは、負担させる債務や費用の内容を記載します。

条件付の事例

条件とは、「~したら、〇〇する」というような内容になります。
~したら、と将来起こりうるかどうか分からない不確実なことにで、効力が発生たり消滅したりして権利関係も複雑になるので、設定内容にも注意が必要です。

よって、不確実な事実を前提とするような敢えて条件付きとする理由がないのであれば、シンプルな負担付遺贈での遺言が適切と言えます。

停止条件付遺贈

将来起こるどうか分からない不確実な事実が起こるまで遺贈手続きを停止することを停止条件付遺贈と言います。

例えば、「司法書士試験に合格したら、、」「結婚したら、、」ということがあげられます。

合格、結婚するまでは遺贈手続きは停止され、合格、結婚して手続きが実行されます。

この場合、「30歳までに」のように期間制限を付けておくことも大事です。
決めておかないと長期間遺贈の対象となっている財産が不安定な状態になってしまいます。
※「30歳になったら〇〇する」というような内容は、将来発生することが確実なので期限付遺贈と言います。

解除条件付遺贈

停止条件とは逆に、相続発生と同時に遺贈の効力が発生、将来不確実な事実が起こると効力が消滅してしまうのが解除条件付遺贈です。
例えば、「妻に遺贈するが、妻が再婚したら遺贈の効力は失う」「家業を継がなかったら遺贈の効力は失う」というようなものがあげられます。

停止条件・解除条件の注意点

停止条件で設定した条件が成就した場合は、遺言の内容通りに遺贈をすれば済みます。
※ただし、成就までの期間が長いことが予想される場合、その間の維持、管理を誰が誰の費用でどのようにするかを決めておくことも重要です。決めていなければ基本的に相続人全員が管理するすることになりますが、管理方法、費用でもめるおそれがあります。

成就しなかったり、成就する前に受遺者が亡くなってしまった場合の対処方法も遺言書で決めておくことが良いです。
何も決めていなければ、受遺者が成就前に亡くなると遺言は効力を生じなくなります。

このような場合の対処方法を予備的遺言として記載しておくことで混乱を回避できます。

解除条件でも同様に、いつ解除されるか分からない状況が続くことは不安定です。

上記の例で、「妻が再婚したら解除」としている場合、再婚しないまでも再婚の可能性がある状態がずっと続くことになり、いつ解除されるか分からない状態と言えます。
成就した(再婚した)場合も、解除の効果が相続時に遡るのか成就した時点で生じるかで扱いも変わってきます。

効果の発生する時期や解除後の処置方法も指定しておくことが大切です。

比較・まとめ

以上のように「負担付遺贈・相続」「条件付遺贈・相続」について説明しましたが、具体例を元に両者を比較します。
夫が自分の死後、妻の面倒をみることを負担・条件に子供に家を承継させたいとの希望を持っている場合での「負担付」と「条件付」で検討します。

「負担付遺贈・相続」:家を相続する子供の負担としては、「妻の生存中、無償で家に居住させる」、「妻に生活費として毎月末日に〇万円渡す」「養護施設等なんらかの施設に入居する場合は入居費用を負担する」等々を記載します。

受遺者が負担を実行しないときは、まず、相続人が実行するように要求し、それでもしないときは家庭裁判所に取り消すよう請求することになります。

「条件付遺贈・相続」:停止条件では「妻が死亡するまで面倒をみたら」、解除条件では「妻の面倒をみなくなったら」が条件となります。

停止条件では、長期間妻の面倒をみて亡くなって初めて遺贈の効果を取得でき、その間不安定な状態が続くことになります。
解除されることになると、何も決めていないと遺贈の対象物は相続人による遺産分割協議が必要なるので処理が非常に面倒になってしまいます。

このように将来の事実の発生により相続・遺贈の効果が発生したり消滅したりするような条件付遺贈・相続は、確定するまでの間の権利関係、確定してからの権利関係が複雑になるので特別な事情がない限り、特に発生しうる期間が長期にわたることが予想されるような場合は避けた方が良いでしょう。

遺産を渡す上で相手に何かをしてもらいたい場合は、「負担付相続・遺贈」での遺言書作成をおススメします。