孫に相続

子供ではなく孫に直接私の財産を相続させたい。
このように思われている方も少なくありません。

例えば、子供は娘1人だけ、結婚していて孫もいる。
私が死ねば遺産は全て娘が相続することになるが、娘夫婦の関係を見ていると娘婿が遺産をいいように使いそうで心配。娘婿に使われるくらいであれば、孫に残してやりたい・・

または、息子には浪費癖があるので遺産をもらったら遊興費やギャンブル等に使ってしまいかねない。息子には子供がおり、孫たちの行く末が心配でならない。私の遺産は孫たちのために使ってもらいたい・・

いろいろな思いで孫に相続させることを望む方も少なくありません。
遺言書さえ書いておけばと「孫に全財産を相続させる」と明記した遺言書を書いていた場合、それで大丈夫かと言えばそうではありません。

孫に財産を相続させる方法と孫に相続させた遺産が実際に孫のために使われるようにするための注意点を司法書士が解説します。

孫は相続人?

よく血を分けた直系の孫だから、孫も私の相続人だと思っておられる方もいますが、孫は相続人になる場合とならない場合があります。

故人(被相続人)の子(孫の親)が生存している場合、孫は故人の相続人にはなりません。
相続人になりえる範囲は、配偶者(妻、夫)、親、子、兄弟姉妹までで孫は相続人にはなりません。
ただし、子(孫の親)が故人より先に死亡している場合、孫は相続人となります。親に代わって孫が故人の遺産を相続することになります。
このとき孫は代襲相続人と呼ばれますが、相続権利は通常の相続人と全く同じです。

孫に財産を相続させる方法

孫に遺産を渡すには以下のような方法が考えられます。
・生前贈与する。
・遺言書を書く。
・家族信託を利用する。
・孫を養子にする。

孫に生前贈与をする

生前贈与をすることで直接孫に財産を受け継がせることができます。
法定相続人でない孫への生前贈与は特別受益にならないので、相続開始後に贈与した分を遺産に組み込んで遺産分割するようなことにはなりません。
しかし、生前贈与時に孫が代襲相続人になっていれば、他の相続人から生前贈与は特別受益だと主張されて遺産分割の対象となるおそれがあります。
このようなおそれがあるときは、遺言書を作成して孫への生前贈与は特別受益としての持ち戻しを免除する旨を明記することが重要になります。

税金に関しては、孫への生前贈与には贈与税が課せられます。
贈与税は相続税より高額になりますが、孫が20才以上であれば税率は少し低くなります。

2,000万円を孫に生前贈与する場合、贈与税率は50%(250万円控除)となりますが、孫が20才以上であれば、45%(265万円控除)となります。
贈与の対象が不動産であれば、贈与税に加えて不動産取得税、登録免許税がかかります。

暦年贈与の活用で無税で贈与

贈与には高い税率がかかりますが、年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。
これを暦年贈与と言います。

上限はありますが計画的に毎年贈与することで高額な贈与税を払わずに孫に財産を移転することできます。ただし、渡し方によっては税務署から一括贈与と捉えられ贈与税が課せられてしまうケースがあるので注意が必要です。
多額の金銭を単純に10や20で割って、決まった金額を決まった月日に渡すのではなく、毎回贈与契約書を作成する等の準備をしっかりしなくてはいけません。

暦年贈与には贈与税はかかりませんが、孫が代襲相続人等であったりすると相続開始前3年間の暦年贈与が相続税の課税対象となる場合があります。

相続時精算課税の活用

孫であれば、相続時精算課税制度を利用することができます。
要件を満たせば2,500万円まで贈与税非課税で生前贈与でき、贈与者死亡時に相続税が課税されることになります。(贈与時の評価額で計算)。

最大のメリットは、自分が生きているうちに孫にしっかり相続させる手続きを確認できることです。
この制度を利用するには事前に税務署に申告が必要で、申告後は暦年贈与はできなくなります。

遺言書を書く

孫が財産を相続する旨の遺言書を作成します。
孫が代襲相続人であれば、相続財産を特定して「〇〇に相続させる」と明記します。

「相続」は(代襲)相続人が遺産を受け継ぐことを意味するので、孫が相続人ではない場合は「相続させる」ではなく、「遺贈する」と記載することになります。

このとき遺言書に遺言執行者を指定しておくことが大切です。
遺言執行者を指定しておけば遺言執行者が孫に遺贈の手続きをすることができますが、指定していなければ相続人全員の協力が必要になり、手続きが面倒になってしまうので注意下さい。

家族信託を利用する

受け継がせたい財産を信託して最終的に孫に渡す方法が家族信託です。
家族信託を活用することで、自分の財産を信託財産とすることで相続財産から切り離すことができ、相続とは関係なく孫に財産を引き渡すことができます。

このように家族信託にすれば相続争いに孫を巻き込む心配がなくなり、どうのような形で信託財産を管理運営し、最終的に孫に渡すかを自分で決めることができることが最大のメリットです。

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孫を養子にする

孫が法定相続人でない場合、養子にして法定相続人にし、その孫に財産を相続させる遺言書を作成することで直接孫に財産を受け継がせることができます。

養子することで法定相続人が増え、相続税での控除額が600万円増加しますが、養子にした孫の相続税は通常の2割増しになります。

注意すべき点は、養子にすることで孫も他の相続人と同等になり、紛争が起きた場合は当事者になります。養子にした孫に遺産を多く渡したいときは、公正証書遺言は必須と言えますし、他の相続人の遺留分を考慮して、もめない遺言書の内容、もめたとしても最後は遺言書の内容通りにするしかないような遺言書の作成が重要になります。

遺留分に注意

法定相続人には遺留分という権利が認められています。
相続人である以上、最低限度の相続割合を請求できる権利が法律で認められています。
孫に全財産又は大部分を生前贈与、遺贈したことにより他の相続人の遺留分を侵害した場合、侵害された部分を請求されるか?

生前贈与と遺贈の場合で異なるので注意が必要です。
生前贈与の場合、相続開始前(死亡時)の一定期間内に相続人又は相続人でない者にされた生前贈与は、相続財産として遺留分の計算の対象になります。
相続人にへの生前贈与は10年、相続人以外の者への生前贈与は1年。

親が生存している孫は相続人以外の者になるので1年。
遺留分の対象にしないようにするには、1年以上前に贈与しておく必要があります。

遺贈については生前贈与のようなことはなく、遺留分計算の対象となります。

孫に遺産を渡した後の管理が重要

孫が成年に達していれば、受け取った遺産は自分の意思で使うことができます。
問題は孫が未成年である場合です。
孫が幼ければ、孫に遺産を渡しても実際に管理、処分するのは親権者である親になります。最近、後見人が被後見人の財産を勝手に自分のために使った等の横領事件が報道されますが、同じように親が孫のためでなく自分のために浪費することも考えられます。

使途を教育費に限定するのであれば、「教育資金の一括贈与制度」を利用することで1,500万円まで非課税で孫に贈与することができます。
金融機関等がお金を預かり管理するので、簡単には教育費用以外の私的流用はできなくなります。
ただし、金融機関等に対してそれなりの手数料がかかります。また、教育費以外にお金が必要になっても使えません。

教育費用に限定せず孫が成長する上で必要な費用のためのお金を残したいとするのであれば、家族信託の利用が考えられます。

財産を信託財産にして、受益者(信託によって利益を受ける人)を孫に、受託者(信託された財産を管理運用する人)を子(孫の親)や信頼できる人にして孫のためのお金を使っていくようにします。
受託者の私的流用が心配であれば管理運用方法をチェックする第三者として信託監督人を置くこともできます。
管理運用方法、お金の使い方等を信託契約書で規定することで、どうのように孫のために自分の財産を使ってもらいたいかを自身で決めることができます。

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