
相続人が複数人いる状況で不動産を相続する方法として、代償分割というやり方があります。
子供3人が相続人のケースで遺産である甲土地を相続する場合(遺言書はない)、現物分割、換価分割、代償分割、共有相続の方法が考えられます。
相続人のうち1人が甲土地を相続する場合、代償分割の方法で行われることになります。
甲土地に対しては、共同相続人である3人は3分の1の割合で等しく相続権を有しているので、この権利関係を調整しなければいけません。
他の2人が甲土地に対して相続分を放棄すれば、相続する1人の名義に相続登記するだけで済みますが、そうでなければ、他の2人に対して3分の1に相当する対価(代償)を支払うことになります。
そして、この代償分割で問題になるのが、どうやって相当額を決めるか、になります。
相当額を決めるには、土地全体の評価額を決めなければいけません。
評価額を高くすれば代償額が高くなり土地を相続する者に不利になります。
逆に、低くすれば土地を相続しない者に不利になります。
このように、評価額をめぐって利害が衝突するのでもめてしまうことがあります。
土地の評価方法
評価額の基準として、以下の価格が考えられます。
- 固定資産税評価額
- 路線価
- 公示地価
- 基準地価
- 実勢価格(取引価格)
- 不動産鑑定評価額
固定資産税評価額
固定資産税評価額とは、不動産を所有しているとかかる固定資産税の計算の基になる不動産の評価額です。
各自治体が毎年、不動産所有者に送付する「固定資産税納税通知書」に記載されています。
この固定資産税評価額は、国が定めた固定資産評価基準に基づき、知事または市町村長により決定されます。
公的な不動産評価額なので、代償分割をする際にこの評価額を採用することがあります。
路線価
路線価は、相続税や贈与税の計算の基になる評価額です。
毎年、国税庁より発表されます。
代償分割は相続手続の一環なので、路線価は相続税に係わる評価額なので、代償分割での対価を計算する上で親和性が高いといえるのでしょう。
公示地価/基準地価
公示地価は、国土交通省より毎年発表される土地の地価です。
土地取引の指標として使われることのあり、国が公示地価を発表する目的も「一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業に供する土地に対する適正な補償金の額の算出等」のためとしています。
但し、対象は都市及び周辺部になっています。
基準地価も同じような目的で、各都道府県が行っており、対象地域の限定もありません。
実勢価格
実勢価格とは、実際に売る場合の売却額(市場価格)を言います。
不動産会社に評価額を出してもらうことになります。
不動産鑑定評価額
不動産鑑定士により算出してもらった対象土地の評価額です。
土地の形状、立地、周辺地域等々、いろいろな側面から土地を評価して価格を算定します。
評価額の決定
代償額を算出するには、対象土地の評価額を決めなけれ場いけませんが、上記のように評価額にはいろいろな方法があります。
そして、代償分割の算出はこの方法による、という規定はありません。
当事者で話し合って決めることになります。
一般的には、固定資産税評価額や路線価は実勢価格より低いと言われています。
よく、固定資産税評価額 ÷ 70%x1.1(又は1.2)、路線価 ÷ 80% x 1.1(1.2)が実勢価格の目安になる、と言われたりします。
参考価格になるでしょうが、現実にその価格で売れるかは別の問題、買い手がいなければ実勢価格は必然的に下がります。
価格的に見ると、あくまでも一般的ですが、固定資産税評価額<路線価<公示地価・基準地価<実勢価格となる傾向にあります。
相続する者は固定資産税評価額を、代償金をもらう側は実勢価格を基準とすることを主張して対立するケースが多くなります。
決定方法
まずは、当事者間で話し合って決めることになります。
例えば、固定資産税評価額と実勢価格でもめているのであれば、中間の路線価や公示地価を基準にしたり、互いが主張する評価額の中央値で算出する等、互いに妥協して話しをまとめる努力が必要になります。
なかなか話しがまとまらなければ、公平的第三者の意見として、不動産鑑定士に評価額の算出を依頼することも考えます。
ただし、不動産鑑定士に依頼した場合、数十万円から100万円前後と費用は安くないので、無駄にならないように、どんな額が算出されてもその額に従う旨の合意をしておいた方が良いでしょう。
決まらない場合
当事者間では決まらない場合、家庭裁判所に遺産分割の調停をお願いすることになります。
基本的に調停では、調停委員と個別に協議を行い、直接当事者が協議することはありません。
ただし、状況によっては、調停委員を交えて当事者全員が集まって協議する場合もあります。
調停委員が当事者たちの意見を聴き、調整しながら協議をまとめていくので、裁判と異なり弁護士を代理人にすることなく自分で対応することが可能です。
話し合いがまとまれば、取決め事項を調停調書にまとめて終了となりますが、まとめらなければ自動的に審判に移行し、裁判長により決定(判決と同様)がだされます。
決定に不服があれば、他の裁判と同じように控訴することもできます。
まとめ
代償分割で大きく問題になるのは、相続する方が代償金を準備できるかということと、代償金額になります。
代償金を準備できなければ、そもそも代償分割は選択できないので、どうやって代償金額を決めるかが一番の問題になります。
固定資産税評価額や路線価等の公的機関による評価額はそれぞれ一つの評価額になりますが、実勢価格は依頼した不動産会社によって異なります。
また、大金を出して依頼する不動産鑑定士の評価額も、鑑定士によって異なります。
評価の基準が多ければ多いほど、自身に有利な評価額を求めて争うことになり、こじれる結果となってしまいます。
過去、遺産分割調停での主張書面作成支援として係わったケースで、評価額で当事者が争いまとまらず、結局、審判まで行った事案がありました。
私としては、協議をまとめるには互いに譲歩が必要ですが、譲歩することも、譲歩を得ることもできないと判断したら、早急に調停を打ち切って審判に移行し、裁判長の判断を仰ぐようにした方が良いかなとも思います。
互いに譲歩できない状況で延々を争い合うことは、感情的対立を深めるだけで良いことは何もありません。
控訴ということも有り得ますが、審判での「裁判長の判断」が一つの区切りになり、互いが受け入れ争いに終止符を打つことができます。