
被相続人と法定相続人の間で相続が発生します。
直接的な当事者はこの2つの地位にある人達だけですが、現実は被相続人とは血縁関係がない人達も相続に大きく関わってきます。
被相続人が自分が死んだ時のことを考えて事前に行ったことでも、相続人、その関係者によって争いに発展してしまうことがあります。
ここでは、最高裁まで争われた被相続人とは血縁関係人にない者同士の相続争いの事例をご紹介します。
ご自身が当事者の各立場になったらどう対処するかを想像しながらお読みいただけたら幸いです。
血縁関係のない人達での争い
ここでご紹介する事例は、家庭裁判所⇒高等裁判所⇒最高裁判所とフルに争われたケースです。
被相続人Aは平成25年にお亡くなりになり、平成31年に最高裁で判決がでました。約6年間、争ったことになります。
経緯:
- AB夫婦には子が1人いる。
- 夫Bが死亡したのち、子も死亡した。
- Aは夫Bの姪Eの夫に財産全てを遺贈する旨の自筆遺言書を作成した。
- 遺言書を作成した3ヶ月後に、Aは夫Bの甥Dと養子縁組をした。
- 養子縁組から3年後にAが死亡し、Eの夫は遺言書に基づき全財産の包括的遺贈を受けた。
- 養子DがAの相続人として遺留分を請求した。遺留分はAの財産の1/2になります。
- Eの夫がADの養子縁組は無効との訴えをおこした。
- Dが死亡し、D妻が訴訟を引き継いだ。
紛争の原因
Aは非嫡出子で父が異なる兄弟姉妹がいたのですが、兄弟姉妹には遺留分の請求が認められていないので紛争当事者になっていません。
上記の経緯の中で、紛争の火種は3と4になるでしょう。
3の段階では、Aの法定相続人は遺留分請求権のない異父兄弟姉妹だけなので、Aが全財産を第三者に遺贈する旨の遺言書を残していれば問題なく当該第三者であるEの夫がAの全財産を受け取ることができました。
4の段階になって、なぜかAは夫の甥であるDを自分の養子にします。
養子になることで法定相続人となるので、財産全部を第三者に遺贈する遺言書を作成していても、養子となったDには遺留分を請求権する権利が発生します。
Dが請求すればEの夫はAの財産から遺留分を渡さなければいけなくなり、遺言書の通り全財産を受けることができなくなります。
3と4でした行為は相反するものと言え、これが紛争の原因となります。
本来、Eの夫もDもAと血縁関係がなく法定相続人ではありません。
法定相続人は異父兄弟姉妹になりますが、遺言書と養子縁組で血縁関係がない者同士が最高裁まで争うことになってしまいました。
高裁・最高裁の判断
包括受遺者としてのEの夫の身分が問題になりました。
高裁では以下のように判断されています。
養子縁組が無効であることで自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は、訴えの利益を有しないと解される。
これは、
Eの夫はもともとAとは血縁関係がないので、AとDの養子縁組が無効になってもEの夫の身分には何ら影響がない。よって、Eの夫にはADの養子縁組無効の訴えをおこす資格がない(訴えの利益がない)ということを意味します。
ひらたく言えば、ADの養子縁組が有効か無効か赤の他人のEの夫には関係ないので訴えることはできないと言っています。
しかし、高裁はさらに、
とは言っても、Eの夫はAの全財産を遺贈された立場にあり、ADの養子縁組が有効であれば養子であるDから遺留分請求を受けAから受け継ぐ財産に大きく影響するので、自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者に当たるとして、最終的にEの夫によるAD養子縁組無効確認の訴えを認めました。
これに対して最高裁は、
遺言によってAの財産全部の遺贈を受けたEの夫は、Dから遺留分の請求を受けても養子縁組が無効になることで財産上の影響を受けるにすぎないのでADの養子縁組について訴えにつき法律上の利益はないと認めませんでした。
この裁判の経緯は、第一審の家裁ではEの夫に訴えの権利がないとして養子縁組について何ら審理せずに却下判決、高裁ではEの夫に訴えの権利があるから家裁で再度審理しなさいと差し戻し判決、最高裁に上告され最終的に訴えの権利がないと判断されています。
最初の裁判でEの夫による訴えの権利が争点となり、高裁、最高裁もこの点のみを判断し、結局AD間の養子縁組が有効か無効か審理されることはありませんでした。
まとめ
今回のケースでのポイントは、Aが相続に関して相反する行為を短期間でやっていることです。
何の血縁関係もないEの夫を全財産の受遺者にする遺言書を自筆で作成したわずか3ヶ月後に、Dと養子縁組をすることは通常考えにくいことです。
知れない事情があったのかもしれませんが、Aの意思だけではなく、周りのいろいろな思惑というようなものが絡んでいるのかもしれません。
また、遺言書作成、養子縁組をした3年後にAは亡くなっているので、当時のAの意思能力がどういう状態だったのかも懸念されます。
もし、Aの意思能力に問題がある状態であったのなら、Aに成年後見人が付いていたら違った状況になっていたのかもしれません。