
2021年に民法の一部改正法案が成立し、現在施行待ちになっています。
改正法は2021年4月28日から2年以内に施行(適用開始)されることになります。
いろいろなことが改正されますが、その中に、相続放棄した者の故人所有の不動産管理義務についての改正が含まれています。
現状(令和3年12月11日現在)は、下記に説明している通り、相続放棄しても、新たな相続人が管理を始めるまで自身の財産と同等の管理義務があると規定されています。
しかし、今回の改正法では「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」とされています。
従来の自身の財産と同等の管理義務が生じるのは、現に占有しているときに限定されることになりました。
この「現に占有している」とは、その家に住んでいる、何らかの形で使っている場合をさし、遠く田舎で実家に1人で住んでいた親の家や兄弟姉妹の家は対象にならないということになります。
相続放棄をする場合、多くの方は故人に多額の借金があることが理由ですが、中には田舎で1人暮らしの親が亡くなり実家の処分に困って相続放棄を選択される方もいらっしゃいます。
地元の不動産会社に依頼して売却できるのであれば相続放棄する必要はないでしょうが、過疎地域や人口減少している地方都市では買い手がつかないケースも多々あります。
将来田舎に帰って住む予定はない。
売れるかどうか分からない。
長期保有しておくと修繕費がかかる。
固定資産税がかかってしまう。
等々の理由から相続放棄がされます。
では、相続放棄をすれば今後、家とは一切無関係になるか?
相続放棄後の家との関係について、司法書士が分かりやすく解説します。
相続放棄について
相続放棄は、自分に相続があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをしなければいけません。
現金、預貯金等のプラスの財産を一切もらわなかったとしても、家庭裁判所で所定の手続きをしないと、故人の借金を相続したことになるので注意が必要です。
また、相続には順位が規定されています。
1位:子(孫等の直系卑属)
2位:親(祖父母等の直系尊属)
3位:兄弟姉妹(その子)
( )内は子、親、兄弟姉妹が亡くなっている場合にその者に代わって相続人となります(=代襲相続人)。
配偶者(夫又は妻)は常に相続人となるので順位がありません。
先順位の相続人が相続放棄して全員いなくなると次順位の相続人に自動的に相続権が移転します。
例えば、母、子2人の家族で母が死亡、第一順位の子2人が共に相続放棄すると相続権は第二順位の親に移転します。親や祖父母が既に他界していると、相続権は第三順位の兄弟姉妹に移転します。2人の子が相続放棄したことで、知らない間に兄弟姉妹である自分が相続人になっていた・・・ということも起こり得ます。
相続放棄をした場合、次順位の相続人に通知する義務はなく、裁判所も次順位者に通知したりしません。
次順位者も相続権が自分に移転したと分かれば相続放棄を検討するでしょうから、連絡してあげた方がよいでしょう。
次順位者で心配な方は、先順位者に相続放棄したか確認するか、家庭裁判所に直接照会することもできます。
※通常、司法書士が依頼により相続放棄手続きする場合、次順位相続人にその旨をお伝えします。
相続放棄で故人の家の所有権は?
相続放棄をするれば、故人の家を相続することはありません。
つまり、家の所有権登記名義人にはなりません。所有権に関しては、一切関係なくなります。
ただし、空き家になった家の「管理」に関しては異なる扱いがされます。
相続放棄をした場合、故人名義の家に関して3つの状況が考えられます。
- 次順位の相続人が相続して所有者となる。
- 相続人全員が相続放棄をして、相続財産管理人が選任されて家を管理、処分する。
- 何もせず放置される。
1の場合は、何の問題もなく次順位の相続人が相続登記を行って家の新たな所有者となるので、以降は新所有者が家を責任もって管理していくことになります。
2と3のケースについては、個々に検討していく必要があります。
相続財産管理人の選任
民法940条第1項に相続の放棄をした者による管理として以下のように規定されています。
「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
「放棄によって相続人となった者」とは次順位相続人のことを指していますが、相続財産管理人も含まれるとされています。
相続財産管理人とは、相続放棄によって相続人が誰もいなくなった不動産を含む相続財産を管理する人のことで、相続放棄者のような利害関係人や検察官が家庭裁判所に選任の申立を行い選任されます。
選任により相続財産管理人に家の管理責任が移転し、相続放棄者は管理責任から解放されることになります。
全員が放棄すれば選任の申立をすれば良いのですが、話しは簡単ではありません。
まず費用です。弁護士や司法書士が相続財産管理人として選任されますが、当然、費用が発生します。
財産の内容によりますが、50~100万円、場合によっては100万円を超える費用がかかります。この費用は予納金として手続き開始前に裁判所に支払わなければいけなせん。
また、期間も選任申立から管理終了まで1年を超えることも珍しくありません。
相続財産管理人の処分行為
相続財産管理人は、相続財産の清算、処分を行います。
故人に借金があればプラスの財産から返済し、不動産は売却処分することになります。
買い手がいなかったりと処分されなかった相続財産は、「国庫に帰属する」と規定されていますが、買い手がつかなかった価値のない不動産は、管理コストがかかるだけなので国もなかなか引き受けてくれませんでした。
しかし、近年、放棄地が大きな社会問題となり、相続財産管理人から財務省担当局に国庫帰属の申出をした場合、基本的に帰属拒否されない流れになっています。
以前は、売却もできない、国や市町村からの引継ぎを拒否され不動産の最終処分が決まらず長期に相続財産管理人による管理状態が続き、相続財産管理人が辞任して放置状態になってしまうこともありましたが、近年の国の取り扱い変更によりそのような状態は回避できるようになってきました。
家を処分する
相続放棄しても家の管理責任を負い続けるのであれば、なんとか売却を、買い手がいなければ誰かにもらってもらおう・・・と考えられ方もおられると思います。
地元の不動産会社に買い手をみつけてもらうよう依頼したり、近隣、とくに隣家に購入意思がないか尋ねるのもひとつでしょう。更地にするのを前提に土地の買取を提案すると、まとまる可能性もあります。
また、市町村に寄付するよう申出してみることも選択肢のひとつです。
ただし、相続放棄の理由が故人の借金である場合は、上記のような処分行為は絶対してはいけません。
処分行為をすると単純承認したものとみなされ、相続放棄の効果が消滅し、借金も含めて個人の財産を相続したことになってしまいますのでご注意下さい。
放置したらどうなる
相続人全員が相続放棄し、相続財産管理人の選任の申立もせず管理人がいない状態で家が放置された場合どうなるか?
940条2項にあるように、
放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができる状態ではないので、相続放棄した者は自己の財産と同一の注意で家の管理を継続しなければならないことになります。
自分の家と同様の管理責任を負うということは、不適切な管理により第三者に何らかの被害を与えてしまうと賠償責任を問われるおそれがあります。
相続放棄をすると相続人ではなくなりますが、相続人「全員」が相続放棄をして故人の家を管理する人がいない状態になってしまうと、「元相続人」として家の管理責任が生じてしまいます。
※相続放棄をすると相続人ではなくなり家の所有者でもないので、固定資産税を請求されることはありません。
最後に
相続放棄をすることで故人の家を管理する人が誰もいない状態になると、放棄した方は管理責任をとわれることになってしまいます。
責任回避するには、費用、期間がかかりますが相続財産管理人選任の申立を行い、当該管理人に家を管理処分してもらうのが最善でしょう。
または、相続財産管理人の選任申立をしないのであれば、家をそのまま放置し、劣化により倒壊等で第三者に被害を及ぼすことのないように、家は解体して更地にしておくことが被害防止策になります。